第2話

第1話
2,542
2021/03/17 10:53
結唯
そう、決めたはずだったんだけどなあ...
市の総合病院で、とある病気の診断結果を待っていた私。
懐かしい記憶が蘇り、1人苦笑する。
結唯
まだ、死ぬ訳にいかないのに...
せめて"誓い"を果たすまでは、と呟いた時。
院内放送で自分の名前が呼ばれた。
『三笠結唯さん。第2診察室にお入りください。』
結唯
(あ、呼ばれた。行かないと。)
ー失礼します
不安と緊張を混ぜたような感情のまま、診察室の扉を開け。
先生の前の椅子に腰掛ける。
先生
ー三笠さん
悲壮な先生の顔に、背中が凍りついた。
結唯
.....はい
やめて。何も無かったと言って。そう願ったけど。
先生
三笠さんは...現代の医療では治療法が
見つかっていない、極めて珍しい難病に
かかっています。
余命は...もってあと3ヶ月かと
結唯
.............え?
私の願いは、届かない。
先生
我々が出来るのは、進行を遅らせ、
症状を軽減させる事のみです。
申し訳ありません...
淡々と、私に現実を突きつけた先生。
結唯
そん、な。だって...
あと4ヶ月で卒業なのに。
結唯
(どうして、今?何で...私が?)
頭の中は疑問だらけで。
本当は悔しくて、辛くて、質問攻めにしたかったけど。
先生
徐々に歩く事が困難になりますので...
今から遅らせる為の治療を開始します
死ぬのなんて辛くないよ、みたいな声で返事をして。
結唯
ー分かりました
あえて背筋を伸ばし、無理やり笑って診察室を出た。
結唯
(お母さんとお父さんに何て言おう...
それから、1番の問題は)
幼馴染の彼に、なんて伝えるか。
結唯
(さっきからこればっか。でも...)
心配性の彼が少しでも思い詰めてしまわないように。
結唯
(もう、誓いは果たせなく
なっちゃったから)
恋も、楽しい事も。
これから沢山、出来ると思っていたのに。
結唯
(なんか、呆気ない)
自分の人生がもう残り少ない上に、
両親よりも先に死ぬなんて。
結唯
(帰りたくないな)
その後、薬局で大量に処方された薬を持って
帰路を歩きながら、ずっと。そんな事を考えていた。
ー...............................
家に着いてしまい。
大きく息を吸ってからお母さんに話しかける。
結唯
...お母さん
お母さん
あら。結唯お帰り。病院どうだった?
エプロン姿のまま振り返るお母さん。
その声を聞いただけで、言おうとしていた言葉が
喉の奥に吸い込まれて行く。
結唯
その事、なんだけどね
お母さん
ー何かあったの?
結果をすぐに口にしない私に違和感を覚えたのか。
お母さんは訝しげにそう言ったけど。
結唯
(...言えない。私もうすぐ死ぬなんて)
お母さんの優しい笑顔を歪ませたくない。
そう思って言えなかった。
結唯
ううん。何でもない。
病院、何ともなかったよ
見せかけの笑顔を取り繕い、嘘をついて。
お母さん
そう?...なら、良かった
お母さんの視線から逃れるように自室に入り、
大量の薬を鍵付きの引き出しに入れた。
結唯
(…嘘、ついちゃったな)
この隠し事が長くは持たない事も分かっている。
_それでも。
結唯
これで、良かったんだ

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