第5話

第4話 蓮斗side
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2021/07/02 21:56
ちらり、と隣を歩く幼馴染の表情を盗み見る。
いつもより静かに、ただ黙っている彼女は
今、何を思っているのだろうか。
蓮斗
(こいつのこんな顔、
初めて見たかもしれない)
やがて、自宅の前に到着すると
結唯は鍵を開け、家の中を覗き込む。
ホッとしたように顔が緩んで。俺に向かって手招きした。
結唯
蓮斗。入って入って
玄関に足を踏み入れると。懐かしい光景に、目を細める。
蓮斗
...おじゃまします。
かなり久しぶりだな、お前の家
日光が沢山入るように設計された、
清潔感のある白が基調の玄関。
結唯
そう、だね。高校入ってからは...
来てなかったかも
最後に来たのが中学卒業の日だから、3年ぶり位だろうか。
結唯
さて、お母さん帰って来る前に
話したいから。私の部屋行こう
蓮斗
...了解。部屋、人に見せられるレベルに
なってる?w
先に階段を上がって行く背中に、冗談めかしてそう言うと。
結唯
な.....っ
 彼女は勢い良く振り向いた。
結唯
失礼な!ちゃんとなってるし!
振り向いて損した...と、顔が語っている。
蓮斗
はいはいwなら良かったよw
そして、何の前触れも無く。
結唯
うん!.............
その顔に、悲しげな色が滲む。
蓮斗
(何だよ、その顔)
まるで、もう二度と。
こんな会話出来ないとでも言うような。
そんな表情になったのは一瞬で、
すぐに笑顔は戻ったけれど。
結唯
そんな事言ってると入れてあげないよ?
いたずらっ子のように笑う彼女は、
さっきまでの自分の表情には気づいていないのだろう。
蓮斗
え、ここまで来たのに?
だから、俺も。見なかった事にする。
結唯
ーはい。ここ座って
彼女の自室に通され、指定された椅子に座った。
結唯
...怒らないで聞いてね
前置きを入れて、
ベットに腰掛けた彼女と向かい合うような形になる。
蓮斗
(何だろう。いつもと何かが違う)
幼馴染の周りに漂うのは、
楽しげな雰囲気とは正反対のもので。
"嫌な予感"が、かすめて行く。
そして次の瞬間。俺は自分の耳を疑った。
結唯
...私。もうすぐ死ぬらしいんだ
蓮斗
へぇ...え?死ぬ?
こんなにも俺が驚いているのに。
当人は落ち着いた様子で、仕方無さそうに微笑む。
結唯
そう、死ぬの。あと3ヶ月位で
蓮斗
3ヶ月って...
自分の視界が揺らいでいるのが分かる。
それ位、ショックを受けていた。
結唯
私が生きられる残り時間、かな。
ーだからさ
一生のお願い、と。彼女は言う。
結唯
私の、最初で最後の初恋の人に
なってくれないかな?
蓮斗
ーは?
思っても見なかった、『お願い』の内容。
結唯
私、とうとう初恋すら出来ずに
終わりそうだから。せめて
結唯
...片想いを、しておきたいんだ
思わず、片想いの切なさを知っている俺は
こんな風に言い返してしまった。
蓮斗
してて嬉しいものじゃないよ。片想いは
俺の言葉に、結唯が驚いたように呟く。
結唯
...した事あるの?
蓮斗
今もしてるよ。ずっと前から
どこまでも鈍感なんだな、なんて。薄く笑う。
結唯
そうなんだ。叶うと良いね、蓮斗の恋
俺の想いは。もう届かない、届けられない...そう思ったら。
蓮斗
...ありがとうな
何だかとても、胸が苦しかった。

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