言葉が見つからないのだろう。
浮かれた話をするはずの場。
漂うのは、後味の悪い雰囲気だけ。
掠れた自分の声を隠す事も忘れ、呟き続ける。
寒い時、目だけをこっちに向ける仕草。
俺の名前を呼ぶ時の楽しそうな笑顔。
辛い時、迷い無く抱き締めてくれた温もり。
手は暖かいのに、指先だけ冷たかったデートの日。
細いのに、実は武道も出来る格好良い所。
甘い匂いがする所。
寂しい時、隣に居てくれる優しさ。
考え事をしている時、口元がふにゃっとなる癖。
何かあると、1番に俺を頼ってくれる事。
『ほんと、泣き虫だね笑』
目を瞑って耳を澄ませば、まだ声が聞こえる気がして。
全部、全部全部全部。
好きで好きで、大好きだったから。
まだ、過去形に出来ない部分があって。
逃げるように立ち上がり、
机に3人分払えるだけのお金を置いた。
2人の制止には耳を貸さず居酒屋を出て、
騒がしい繁華街を歩く。
『人って、2回死ぬんだよ』
ふと思い出したのは。
生前の彼女が教えてくれた、こんな話。
不思議がる俺に、彼女は続ける。
『1回目は身体を失っちゃった時。
2回目は、誰からも忘れられてしまった時。
だから...だからね』
『蓮斗さえ私を覚えて居てくれれば。私は死なない』
いまいち納得行かなかった、あの頃。
彼女の遺した言葉や話は、時を経て。
俺に届いて居る。
今、全てが理解できなくても良いのかも知れない。
俺は、心の底から幸せだったんだと思った。
結唯が幸せだからとかじゃ無く。自分自身が。
このまま死んでも良いかも、とか。
誰にも言えない戯言が、生温い空気に溶ける。
誰かに後ろ指を指されるような人生だって。
結唯が居れば十分だった。
助けて欲しくて名前を呼んでも。
引っ張り上げてくれる幼馴染は居ないと。
改めて突き付けられた、24歳の夏だった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。