自室で勉強をしていた俺に電話が掛かって来たのは。
1人で彼女に会いに行った、その夜の事。
酷く慌てた彼女の母親の口から語られた内容は。
あまりにも重くて。
それに、胸騒ぎがした。
急いで最低限の荷物を持ちながら、通話を続ける。
俺を、間に合わせて欲しいと、頼んだ。
頼もしい声で請け負ってくれた結唯の母親と電話を切ると、
自転車のスピードを出来る限り上げて、病院を目指す。
早く、早く。全てが遅くなってしまう前に。
ただ、生きていて欲しい。
それだけを願いながら駐輪場に自転車を置いて、また走る。
病室の扉を開けると、思ったよりは静かな雰囲気で。
これは処置の終わった後の雰囲気なのか。
それとも間に合わなかった時の特有な雰囲気なのか。
心電図を見るのも、もどかしくて。
そのベット脇に座る彼女の母親に問いかけると。
いつもの元気な雰囲気は消え失せ、
少しやつれたような表情を浮かべて、答えてくれた。
必死に作ってくれて居る微笑みが、崩れ。
出来る事なら変わってあげたかったと
静かに涙を零していて。
俺は、その様子を見ても、何も言う事が出来なくて。
謝るのは俺の方なのに、謝られてしまった。
無責任に。結唯自身だけで無く。
結唯の家族の辛さや痛みも理解した顔をして。
一緒に背負えて居るみたいに思い込んで居たけれど。
俺は最初から。何一つ、背負えていない。
だからこそ。今からでも間に合うのなら。
自己満足と言われても、構わない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!