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第1話

プロローグ
4,329
2021/03/11 13:48
これは、約12年前。
私が自分の生涯に渡る誓いを。幼馴染に立てた日の、記憶。
結唯
ねぇ、何見てるの?
大人ばかりが集まる会場に、息が詰まったのか。
きっちりとした黒いフォーマルを身につけた
蓮斗が外に飛び出し、空を見ていた。
__瞬きすらせず、強い眼差しで。
蓮斗
...昔はさ
蓮斗が静かに話し出す。
結唯
うん?
蓮斗
煙突から煙が出たんだって。
煙になった魂は空に昇って行くんだ
そんな彼の言葉に釣られるようにして、空を見たけれど。
結唯
(晴れてるなあ...)
空は雲ひとつない快晴だ。
蓮斗
今は、環境問題とかそういうので
煙出なくなったらしいけど...なぁ
蓮斗
母さんは、天国に行けると思う?
呟くような彼の問いかけに私はキッパリと言い切った。
結唯
絶対行ける!
突然の私の大声に、蓮斗は驚いた顔でこちらを見る。
結唯
蓮斗のお母さんは天国に行ける。
あんなに優しいもん、大丈夫
蓮斗
そうかな
結唯
そうだよ!
蓮斗
...何で、分かるんだよ
蓮斗の僅かに険のある声。
私は自信に満ちた顔で、胸を反らせた。
結唯
死んだ事がある訳じゃないから
これが正解って物は分からないけど...
天国に行ける方法をお母さんと
考えたんだ
全てを読み取るような彼の強い視線にドキドキしながら、
深呼吸して言葉を続ける。
結唯
1番気に入ったのがね...
人は死ぬと見えないシャボン玉に
なるんじゃないかって話
蓮斗
シャボン玉?
結唯
シャボン玉ってフワフワしてて...
どこにでも飛んでいけるでしょ?
だから、私達の側に来て様子を見たり、
天国に戻ったり...楽しくやってるよ、きっと
蓮斗
...お前の母親ってそんな事
言う人だったっけ?
黙って私の話を聞いていた呆れ顔の蓮斗が、そう言って。
私は唇を尖らせながら言い返した。
結唯
本当に言ったもん!
蓮斗
限りなく嘘くさい...
結唯
正解はさ、いつか死んだ時に教えて
貰おうよ。一緒に
それでも信じない彼を納得させようと思ったけど。
蓮斗
一緒になんか死ねる訳ないだろ
容赦のない、突き放すような言葉が彼から聞こえた。
このまま放っておいたら、彼が遠くに行ってしまいそうで。
結唯
冷たっ!じゃあ先に行って
1人で正解聞いちゃうもんね
一緒に聞きたかったのに、なんて思いながら
そっぽを向くと。
蓮斗
勝手にしろよ笑
結唯
(ーあ.......)
少しだけ口角を上げて。小さく笑う彼が、そこにいた。
結唯
(笑顔なんて、いつ以来だろ)
お母さんが亡くなってから
全くと言って良い程、笑わなくなってしまった蓮斗。
活発で、外で遊ぶのが大好きだったのに。
結唯
(いつの間にか...家で本ばかり
読んでいるようになってた)
__だから、この日決めたんだ。
結唯
(私が彼を...1人にしない)
ずっと隣にいると。

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