辛い事も、楽しい事もあった高校生活が、今日で終わる。
卒業証書授与の為、次々と同級生の名前が呼ばれて行く中。
当然、俺の名前も呼ばれたけれど。
『三笠結唯』と言う名前に返事をするはずの彼女は居ない。
堂々と証書を受け取る姿を、この目に映す事は叶わない。
周りとは違う意味で泣きそうになり、慌てて俯いた。
...結唯を失ってから初めて登校した日。
この事実を知ったクラスメイトは、酷く驚いていた。
『全く聞いて居なかった』とか。
『そんな素振りすら見せられなかった』とか。
元々、自分の事を友達に話す事が少なかった幼馴染。
心無しか、クラスの雰囲気も暗くて。
結唯が沢山の人に好かれて居た事を、実感した。
『卒業生、退場』
在校生の拍手と視線の中を、歩く。
不思議と、涙は出て来ない。
校門前でクラスメイトとの別れを惜しんで居ると。
顔を真っ赤にしながら目の前に現れた後輩。
この一言に、どれだけの勇気を振り絞ってくれたのか。
察したからこそ、断る事に胸が痛んだ。
ずっと前から。第2ボタンを渡したい相手は決まっている。
袖口のボタンを渡すと、
複雑そうな顔をしながら去って行った。
その背中を俺と一緒に見送った友達からの、恨み事。
軽く否定してから、笑って見せたけど。
きっと、俺にしか分からない事がある。
1番好きな人に、もう何も届けられない事の辛さ。
この世界に居る理由だった人を亡くして。
新しい生き方を探し続ける、闇雲な空虚感。
憎たらしい程に澄んだ青空に伸ばした手が、
結唯に届けば良いのになんて。
馬鹿にされるから、絶対言わないけれど。
十人十色に輝いていた日々が。
胸を張って歩けと背中を押すから。
.........俺達は、今。
それぞれの道を、歩み始める。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。