第46話

第45話
907
2021/02/25 11:37
辛い事も、楽しい事もあった高校生活が、今日で終わる。
卒業証書授与の為、次々と同級生の名前が呼ばれて行く中。
担任の先生
.....和泉 蓮斗
当然、俺の名前も呼ばれたけれど。
蓮斗
___はい。
『三笠結唯』と言う名前に返事をするはずの彼女は居ない。
堂々と証書を受け取る姿を、この目に映す事は叶わない。
蓮斗
...........っ
周りとは違う意味で泣きそうになり、慌てて俯いた。
...結唯を失ってから初めて登校した日。
友達
...え、三笠さんが?嘘だろ?
この事実を知ったクラスメイトは、酷く驚いていた。
『全く聞いて居なかった』とか。
『そんな素振りすら見せられなかった』とか。
元々、自分の事を友達に話す事が少なかった幼馴染。
心無しか、クラスの雰囲気も暗くて。
蓮斗
(ムードメーカーが居ないと、
こんなに変わるんだ)
結唯が沢山の人に好かれて居た事を、実感した。
『卒業生、退場』
在校生の拍手と視線の中を、歩く。
友達
ずっと高校生で居たかった...
不思議と、涙は出て来ない。
蓮斗
バカ言うなよ、子供かww
校門前でクラスメイトとの別れを惜しんで居ると。
後輩
...あの!
蓮斗
.....ん?(2年生...か)
顔を真っ赤にしながら目の前に現れた後輩。
後輩
第二ボタン、貰えませんか
この一言に、どれだけの勇気を振り絞ってくれたのか。
察したからこそ、断る事に胸が痛んだ。
蓮斗
あー...ごめん。他のボタンでも良い?
ずっと前から。第2ボタンを渡したい相手は決まっている。
後輩
...はい。ありがとうございます
袖口のボタンを渡すと、
複雑そうな顔をしながら去って行った。
友達
蓮斗、地味にモテるよな...嫌がらせかよ...
その背中を俺と一緒に見送った友達からの、恨み事。
蓮斗
そんな事無いからww
軽く否定してから、笑って見せたけど。
きっと、俺にしか分からない事がある。
蓮斗
...お前も、いつか出会えるよ
1番好きな人に、もう何も届けられない事の辛さ。
友達
え、何だよ急にw
蓮斗
.........別に?w
この世界に居る理由だった人を亡くして。
新しい生き方を探し続ける、闇雲な空虚感。
蓮斗
.....そろそろ帰るか
憎たらしい程に澄んだ青空に伸ばした手が、
結唯に届けば良いのになんて。
友達
だな。駅まで一緒に行こうぜ
馬鹿にされるから、絶対言わないけれど。
蓮斗
卒業したって実感、湧いてきたw
十人十色に輝いていた日々が。
友達
やっとかよ.....まぁ俺もだけど
胸を張って歩けと背中を押すから。
.........俺達は、今。
友達
お前のお陰で楽しかったよ、3年間
蓮斗
.....こちらこそ。ありがとな
それぞれの道を、歩み始める。

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