外に出ると。
冷たい風が長い間眠っていた身体の体力を、
容赦なく奪って行く。
それでも、止まれない。
絶対、間に合わせたいから。
走りながら、今も病室に居るであろう母の事を考える。
か弱い女の子には、なりたくないから。
親不孝な娘で、ごめんなさい。
迷惑を沢山かけて、ごめんなさい。
何度も何度も転びかけながら、
蓮斗の受験する大学の会場を、必死に目指す。
ーどれぐらい、走っただろうか。
限界も見えて来て。
半ば諦めかけた私の視界に映った、幼馴染の姿。
遠目でも、分かる。
ずっと一緒に居た幼馴染の事を見間違えるはずは無いから。
最後に残った、僅かな体力を振り絞って。彼の名前を呼ぶ。
途端に、弾かれたように顔を上げた蓮斗。
私を見るや否や、駆け寄って来る。
驚きに目を見開いて、私の身体を気遣う幼馴染。
見え見えでも強がって、ピースサインをして笑うけど。
やっぱり彼には、私の強がりなんてお見通しで。
それでもやっぱり隠していたくて、嘘をつく。
本当は、自分の身体を支えるのだけでやっとの癖に。
楽天的に振舞って。
受験直前の幼馴染を、励まそうと思ってここまで来たのに。
どうして蓮斗は、私の全てを見抜いてしまうのだろう。
これは、言わば私の最後の意地だ。
無理矢理にでも彼を会場の入り口へと押し込んで。
とびっきりの笑顔で見送る。
私の譲らない姿勢にとうとう折れたのか。
優しい笑顔で宣言して、会場へと吸い込まれて行く
幼馴染を数秒間見つめた私。
『おい!女の子が倒れてるぞ!』
『誰か救急車を!...あとー』
ーその後の記憶は、ほぼ無い。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。