第45話

第44話
969
2020/06/24 06:56
震える指先を懸命に動かして、便箋の表面に触れて。
蓮斗
(家に帰ったら、読もう)
折れないよう気をつけながら、丁寧にカバンの中に入れる。
その後は、正直うわの空で。
お母さん
あら。これ、あの時の.....
お父さん
懐かしいな...
蓮斗
.....................
彼女の両親の会話をぼんやりと聞きつつ、片付けを終えた。
.............................。
場面は変わって自宅前。
お母さん
蓮斗くん、本当にその写真だけで良いの?
写真だけ頂く事にした俺が、遠慮していると思ったようで。
安心させるように笑いかけてから、頷く。
蓮斗
はい。これだけ部屋に置ければ十分です
この先、何があっても。
写真の中の結唯の笑顔を見れば、頑張れる気がするから。
蓮斗
それじゃあ、俺は失礼します。
2人に向かって軽く会釈をして、家の中に入ると。
真っ先に自室に向かって、鍵を閉めた。
蓮斗
.......手紙、読むか
生前の結唯に託された、最後の務めを果たす時。
怖いなんて、言ってられないから。
蓮斗
(大丈夫、受け止められる)
一瞬だけ強く目を閉じて、手紙を開いた。
❖❖❖
___蓮斗へ。
今、蓮斗がこの手紙を読んでるって事は。
もう私は生きてないんだね。
出来れば手紙の出番が来ない事を祈ってるけど...無理かな笑
文字を書けなくなる前に。伝えたい事、伝えとくね。
まず、1つ目。
絶対に自分を責めちゃダメだよ。
私が病気になったのは蓮斗のせいじゃないし、救われてた。
蓮斗と話してる時間に救われてたんだ。
...気づいてなかっただろうけど笑
変えられない運命でも、蓮斗が居てくれたから。
辛く無かったよ。
世の中は理不尽で溢れてて、受け止めるのも大変で。
和泉蓮斗って言う幼馴染が居なかったら。
私とっくに、病気に負けてた。
戦う勇気をくれて、ありがとう。
...2つ目。
『死にたい』なんて、言わないでね。
生きるって言うのは難しいし、上手く行かない事もある。
たくさん傷ついて、失敗して。
それを糧に成長する。
それが、私の思う『生きる』だから。
蓮斗は、諦めないで。
せめて、人生を満喫し終わるまでは生きて居て。
蓮斗だけじゃなくて、他の誰かが死にたいと思った今日は。
私や、今も何処かで病気と戦っている人の。
どうしても生きたかった今日だって事、忘れないで欲しい。
ゆっくりで良いから、一歩ずつ。一歩ずつ歩いて。
そうやって、私の所に来てよ。
じゃないと、追い返すからね?笑
私の幼馴染なら出来るって信じてる。
そして、最後に。
小さい頃にした約束、守れなくて、ごめんね。
でも、いつも見てる。
蓮斗からは見えなくても。私、側に居るから。
だから、あの頃みたいに。
蓮斗の味方が居ない世界は、もう無いよ。
私が壊したから。
...いつか。心から愛する人が出来た時は、紹介しに来てね。
もう私の事は、頭の片隅で憶えてくれて居れば良い。
その人を蓮斗の持てる全てで、幸せにしてあげて欲しいな。
これが、正真正銘の最後のお願いです。
長々と書くのは性に合わないけど。
今回だけは、頑張って書きました。
それと、もう1つだけ。
蓮斗に謝らなくちゃ行けない事があるの。
私ね、ずっと嘘を付いてた。
臆病だから、言えなかったけどさ。
大好きだったよ、誰よりも。
だからこそ。私なんて忘れて、前に進んで下さい。
蓮斗の幸せは、もう作ってあげられ無いから。
これからは、自分で幸せを見つけてね。
今まで、本当にありがとう。
...またね。
                                                                      ___"結唯"
❖❖❖
手紙を読み終わった俺に残ったのは。
蓮斗
...言い逃げ、ばっかり......
どうしようも無い、虚無感だけだった。

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