とても、深く。暗い空間の中に居た。
右を見ても、左を見ても、人の気配はなく。
前にも後ろにも、道はない。
確か、蓮斗と学校に行く途中だったはずなのに。
そう呟いた時。微かに聞こえた誰かの声。
『ー結唯』
私の問いかけに、答えることは無く。声は聞こえ続ける。
『こっちだよ。待ってるから。』
『早く戻って来い』
この人は危険じゃない。本能が、そう知らせていた。
導かれるように、歩き出す。
闇の中に、一筋の光が差して。
私の世界を、明るく照らしていく。
あまりの眩しさに、景色が、意識が飛んで行く直前。
こちらに向かって微笑む蓮斗の姿が、見えた気がした。
ー.................................
気づけば、病院のベットに寝かされていて。
蓮斗が、心配そうに私の顔を覗き込み。傍に座っていた。
自分のせいで彼の単位を落としていたら、と不安になる。
様子を窺うように彼の顔を見上げると。
蓮斗は、いつも通りに笑った。
再び、意識がぼんやりとしてくる。
これだけ迷惑をかけているのに、
何も言わず居てくれる彼の優しさが、改めて身に染みた。
ーでも。私は気づけなかったのだ。
病室の壁にかけられたカレンダー。
そして彼の持つスマホの日付表示が。
最後に私が見た日から、ひと月も変わっている事に。
...時間は、有限だ。
それ故に、大切にしなければいけなかったのに。
彼の優しさに甘え、
再び眠りに落ちてしまったこの時の自分を。
どんなに優しい蓮斗だって、今度こそ呆れて笑うだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!