第17話

第16話
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2020/05/04 09:23
とても、深く。暗い空間の中に居た。
結唯
(ーここは、どこ?)
右を見ても、左を見ても、人の気配はなく。
結唯
(何も、見えない...帰りたいのに)
前にも後ろにも、道はない。
結唯
(何で私、こんな所にいるんだっけ)
確か、蓮斗と学校に行く途中だったはずなのに。
結唯
蓮斗にー...皆に会いたい
そう呟いた時。微かに聞こえた誰かの声。
『ー結唯』
結唯
...え?...誰...?誰なの?
私の問いかけに、答えることは無く。声は聞こえ続ける。
『こっちだよ。待ってるから。』
『早く戻って来い』
結唯
(分からないけど...)
この人は危険じゃない。本能が、そう知らせていた。
結唯
(それに...何だか聞き覚えがある)
導かれるように、歩き出す。
結唯
(早く、早く。皆の所へ)
闇の中に、一筋の光が差して。
私の世界を、明るく照らしていく。
あまりの眩しさに、景色が、意識が飛んで行く直前。
結唯
(眩し.......え?)
こちらに向かって微笑む蓮斗の姿が、見えた気がした。
ー.................................
蓮斗
ー結唯っ!!
気づけば、病院のベットに寝かされていて。
結唯
ん.........れん、と?
蓮斗が、心配そうに私の顔を覗き込み。傍に座っていた。
蓮斗
...っ、やっと起きた...大丈夫か?
結唯
うん。大丈夫...
それよりも、蓮斗は学校どうしたの?
自分のせいで彼の単位を落としていたら、と不安になる。
様子を窺うように彼の顔を見上げると。
蓮斗は、いつも通りに笑った。
蓮斗
...俺の事は気にしなくて良いから。
今は休め。な?
再び、意識がぼんやりとしてくる。
結唯
...うん.........ありがとう
これだけ迷惑をかけているのに、
何も言わず居てくれる彼の優しさが、改めて身に染みた。
蓮斗
ーおやすみ。
ーでも。私は気づけなかったのだ。
病室の壁にかけられたカレンダー。
そして彼の持つスマホの日付表示が。
蓮斗
言えるかよ...1か月も眠ってた、とか
最後に私が見た日から、ひと月も変わっている事に。
蓮斗
センター試験も終わってて、
受験も明日...なんて。絶対言えない。
...時間は、有限だ。
それ故に、大切にしなければいけなかったのに。
結唯
(思ったより、私だいぶ疲れてるのかな)
彼の優しさに甘え、
再び眠りに落ちてしまったこの時の自分を。
蓮斗
(どうか神様。
結唯に失った分だけの時間を与えて下さい)
蓮斗
(その為なら俺、何だってやるから)
どんなに優しい蓮斗だって、今度こそ呆れて笑うだろう。

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