第37話

第36話 蓮斗side
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2021/07/03 07:52
まだ底冷えする寒さが残る日。
いつものように病室を訪ねて居た俺に、
結唯はポツリと言った。
結唯
私さ、今年の桜...見れると思う?
まるで、春を迎える前に死ぬ事を予測させる様な言い草で。
蓮斗
......見れない訳ない。
てか、見なかったら許さない
そんな未来は有り得ないと言う思いも込めて即答すると。
彼女は困ったような笑みを浮かべて。
結唯
........怖いなぁ笑笑
でもまぁ、この病院の近くに、
凄い有名な場所があって。
そこに行きたいんだよね
柔らかく目を細めながら外を眺め、そう呟いていた。
蓮斗
元気になったら一緒に行こう。
だから、その為にも__
もう長くないと分かって居たかも知れない結唯に
この会話をさせていたのだとすれば。
結唯
早く元気になれ、でしょ?
分かってますよ笑
相当、辛かったはずなのに。
結唯
...心配してくれてるの?笑
彼女はいつも通り笑って、俺を茶化した。
蓮斗
っ別に?そんなんじゃ無い
本当は誰よりも心配しているのに。
結唯
そーですか、そーですか笑笑
全く、素直じゃ無いなぁ笑
いざ本人を目の前にすると
素直になれない、俺の"嘘"を汲み取って。
蓮斗
馬鹿にすんな!////
結唯
おお、照れてる照れてる
誰が見ても面倒な性格を、良い性格だと褒めてくれた。
蓮斗
照れてねえし!
結唯
はいはい笑
だから、まだ失えない。
蓮斗
(.....馬鹿は俺か)
自分の為に、結唯を消させない。
蓮斗
(自分勝手だって後で幾ら罵っても良いから)
これが最後の悪足掻き。
蓮斗
.......あの時言ってた有名な所、に居る?
結唯がそこに居ると言う確証も、場所さえ知らないのに。
勘が居ると告げて。
蓮斗
幼馴染の勘、舐めんなよ...っ
走って、走って。ただ走った。
本能が導いてくれる方に。
蓮斗
(見つけたら、説教してやる。
どれだけ心配したか、思い知らせない、と...)
見慣れた姿が視界に映った途端。
自然に足が止まる。
蓮斗
(.........居た)
まだ咲きそうに無い桜の木を見上げる
結唯の表情は、あまりに儚げで。
すぐに、声を掛けられなかった。
蓮斗
(何だろう。綺麗だけじゃない)
凛とした、覚悟を決めた目をするのは。
いつもは見せない顔をしているのは。
俺には背負ってやれない物を抱えて居るから。
後ろから、そっと近づいて行く。
蓮斗
(.....あ、、気づかれた)
その肩を叩く前に。
車椅子のタイヤを回して方向転換した結唯と、目が合う。
結唯
.................来ちゃったんだ笑
薄々分かっていたような顔で小さく笑う彼女に。
蓮斗
...探してたら、見つけた物で
悪びれず、微笑み返して。
結唯
..............蓮斗?
俺から見えない場所に行ってしまわないように。
蓮斗
ごめん。少しだけだから。
そっと、抱き締めた。

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