鈍い重低音を立てながら、登って行くゴンドラ。
徐々に小さくなって行く地面を眺めながら。
遠い昔の事を、また思い出していた。
__13年前。
興味津々、と言った様子で疑問を口にしながら
ゴンドラを軽く揺する蓮斗。
目の前がグラグラと揺れて、怖かったのを覚えている。
蓮斗に向かって弱々しい声をあげた私に、
彼のお母さんが笑いかけてくれた。
頼もしいその笑顔に、その時の私は救われて。
それから、観覧車や絶叫マシンが大好きになった。
観覧車が上に上がっている、この瞬間。
自分の手は届くと思って、いつも必死に手を伸ばしていた。
...落ちかけたのも、1度や2度ではない。
今みたいに色んな事で悩まず。
眩しくて、純粋で居られた日々が、懐かしい。
1日1日を大切に生きないと後悔すると。
向かいに座る彼に話しかける。
私の大好きな瞬間がやって来るよ、と。
可笑しそうに目を細めた彼。
ゴンドラに、沈みかけた夕陽が差し込んで、輝く。
ささやかな神様からの贈り物、そんな風に感じた。
さすがの蓮斗の目も釘付けになっている。
和みながら見つめていると。突如、頭上に差した影。
それと同時に、私達の間の時だけが止まる。
おとぎ話に出てくる王子様みたいに。
自然に額に落とされたキス。
柔らかく優雅に、微笑んだ彼。
この恋は本物にしちゃ行けないのに。
そんな風に言われて、正直。
酷く、胸が傷んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!