第12話

第11話
1,388
2021/07/02 22:13
鈍い重低音を立てながら、登って行くゴンドラ。
徐々に小さくなって行く地面を眺めながら。
遠い昔の事を、また思い出していた。
__13年前。
蓮斗
ねぇねぇ、母さん。
どうしてゴンドラは落っこちないの?
興味津々、と言った様子で疑問を口にしながら
ゴンドラを軽く揺する蓮斗。
結唯
れ、れんと...揺らさないでよ...
目の前がグラグラと揺れて、怖かったのを覚えている。
蓮斗のお母さん
結唯ちゃん、怖がらなくても大丈夫。
これくらいで落ちたりしないから
蓮斗に向かって弱々しい声をあげた私に、
彼のお母さんが笑いかけてくれた。
結唯
でも.......
蓮斗のお母さん
いざとなったらおばさんが守るから。
蓮斗も怖がらせちゃダメよ?
結唯
!!...うん。ありがとう
頼もしいその笑顔に、その時の私は救われて。
蓮斗
...ごめんなさい
結唯
れんと怒られた笑笑
それから、観覧車や絶叫マシンが大好きになった。
結唯
(...あと...月や太陽を掴みにいける、
なんて。思ってたんだっけ)
観覧車が上に上がっている、この瞬間。
自分の手は届くと思って、いつも必死に手を伸ばしていた。
蓮斗
ちょっ、結唯!顔出すな!外に出すな!
結唯
...えっ、何で...うわあっ!?
...落ちかけたのも、1度や2度ではない。
蓮斗
...死ぬから。落ち着こう
結唯
.....はい
今みたいに色んな事で悩まず。
結唯
(私にとって観覧車は...
色んな思い出が詰まってる)
眩しくて、純粋で居られた日々が、懐かしい。
結唯
(...あの頃の私に教えてあげたい)
1日1日を大切に生きないと後悔すると。
結唯
(自分にとって当たり前の今日は。
誰かにとっては、どうしても
生きたかった今日なんだよ、って)
結唯
...ねぇ、蓮斗?
向かいに座る彼に話しかける。
蓮斗
ん?どした?
結唯
いや...もうすぐ頂上だよって
私の大好きな瞬間がやって来るよ、と。
蓮斗
...いつの間に。お前、昔から好きだよな
可笑しそうに目を細めた彼。
ゴンドラに、沈みかけた夕陽が差し込んで、輝く。
結唯
うわぁ...綺麗...
結唯
(ベストタイミングだよ、神様)
ささやかな神様からの贈り物、そんな風に感じた。
蓮斗
.............((ボソッ…すげぇ...
さすがの蓮斗の目も釘付けになっている。
結唯
(なんか可愛いなー笑)
和みながら見つめていると。突如、頭上に差した影。
結唯
...蓮斗?立ったら危な...っ
それと同時に、私達の間の時だけが止まる。
結唯
.............え?
おとぎ話に出てくる王子様みたいに。
自然に額に落とされたキス。
蓮斗
.......ドッキリ大成功
柔らかく優雅に、微笑んだ彼。
結唯
なん、で...?
この恋は本物にしちゃ行けないのに。
蓮斗
大丈夫。恋は偽物なんだろ?...なら
蓮斗
このキスも、きっと無かった事になるよ
そんな風に言われて、正直。
結唯
...うん。そうだよね笑...ごめん
酷く、胸が傷んだ。

プリ小説オーディオドラマ