父にも説明をして。今日は定期検診の日。
着いて行く、と言った母を何とか説得し。
1人で電車に乗り、病院の最寄り駅で降りた。
1人で行った方が、気が楽と言うのは本音だ。
ーただ。
悪化していると突きつけられるかもしれない。
もう回復の余地は無いと言われるかもしれない。
そうなった時、横に誰かいて欲しいのも。
紛れも無い本音。
ここで動かなければ。何も分からないままだから。
これから何度歩くことになるか、
自力で歩いて行けるか分からない病院への道を歩いて行く。
中に入れば、いつも通り沢山の患者さんが居た。
可哀想、とは言いたくない。
だって私も、ここの一員になるんだから。
これまでの人生に誇りを持って生きている。
きっとそれは。皆、同じ。
聞き慣れた看護師さんの、私を呼ぶ声に。
返事をして、扉を開く。
小さく会釈をしながら椅子に腰かけて。
相変わらず何を考えているか分からない、先生の顔を見る。
容赦なく、進行を続けている事実が言い渡されて。
何となくは分かっていた。
私の病気が、進行を止めてくれることは無いと。
先生はその後で。
余命が伸びる見込みは今の所は無い、
薬を増やす必要があるかもしれない、と語った。
予想していたより、遥かに早い。
刻々と近づいてくる死。
徐々に短くなる、自分の足で歩ける時間。
病院を出て駅まで引き返していると、
不思議とため息が出た。
この目に景色が映る事も、誰かの目に私が映る事も。
いずれは無くなってしまう。
皆より、短いだけ。結局は同じなんだから。
残りの全てをかけて、大切な家族や、幼馴染を守る。
見上げた空は、何も知らない顔をして。
青く、輝いて居た。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。