あの後。
ようやく落ち着いて椅子に座った私は、
信じたくない話を聞かされていた。
ざっくり説明すると。
私としては頭の中で話しているつもりだった内容が、赤峰くんに聞かれていた、と言う事になる。
分かりやすく落ち込んでしまった私。
すかさず彼がフォローしてくれた。
その言葉に、思わず顔を上げて赤峰くんを見つめる。
赤峰くんが私を見てくれていた?
ほんの少しの好奇心から始めた歌い手としての活動。
こっそり嬉しさを噛み締める。
心の中でガッツポーズを続けていると
真剣そのものな声に、現実に引き戻されて。
緊張気味に固まって行く表情を見ていると、
自然と返事が出来なくなってしまって。
好きなのに、大好きなのに。
焦りばかりが募る中、少しだけ悲しげな声がして。
一生懸命作られた明るさに、
胸が押し潰されそうになる。
これ以上勘違いされたくも無かった。
そんな顔しないで。そう伝えようとした声は
彼によって掻き消される。
次の瞬間、抱き締められていたから。
頬の熱がどんどん上がって行くのを感じながら
必死に耐えていると、ようやく解放されて。
いまいち力の入らない笑顔を浮かべ、
視線を逸らす。
笑みを含んだ声を聞いて、思う。
いつだって前に進む時は自分の力だけじゃ無理で。
不安にならないかと言ったら嘘になる。
それでも、幸せそうに笑ってくれる彼を見ていたら。
何だって出来てしまうような気がした。
ーやっぱり少し照れたけど。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。