生放送を見ている全ての人に問いかけてから。
彼女は、全てを伝えきったように。天井を仰ぐ。
その姿にすら、愛おしい気持ちが込み上げて。
椎名さんに、少し引かれた。
それから少しして。
コメント欄にリスナーの気持ちが綴られ始める。
『誤解してました』
『信じてあげられなくてごめんね。
もちろん、これからも一緒です!』
『むぅさん大好きだよー!』
そんな暖かなコメントに、彼女は目を輝かせ、
俺を振り返った。
バッ、とお面を取り外した彼女。
知ってたの...と呟く、その恨みがましい声に、
小さく笑う。
そう。最初から分かっていた。
彼女が何を言われようとリスナーを信じ、
自分の全てをさらけ出して想いを伝えようとする事。
そして、誰からも愛される歌い手になる事も。
今までで1番綺麗な笑顔を見せた彼女は。
1人の可憐な女子高生に戻る。
そんな璃夢に椎名さんが歩み寄り。
優しく抱き締め、頭を撫でた。
その温もりに張り詰めていた緊張が途切れたのか。
璃夢の頬を、涙が滑り落ちて行く。
そんな光景を見て。全てが終わったんだ、と
安心してしまいそうになったけど。
まだこの事件の渦中の人物が、
璃夢に謝罪して居ないのだから。
彼女の大切な人ものを奪おうとした犯人が、
自分のリスナーだとしたら、尚更。
静まってくれない怒りを何とか抑え、
少し先の未来を想像した。
俺は。彼女に伝えなければならない事が、ある。
スマホを操作し始めた俺の前では。
璃夢も、椎名さんも笑っていて。
明るい未来を予知するかのような月光が。
俺たちを、見守り。輝いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。