改めて椅子に座り直して、お弁当を広げた私。
大事な話をするかのような雰囲気が出ていた割には
イマイチ締まらない彼に、笑ってしまう。
ようやく口の中の物が無くなったと思ったら、
今度は何を話していたか忘れたらしい。
私にとっては都合が良いので、そう呟くと。
冗談だっただけらしい。
残念に思いながら、肩を落とす。
冷や汗が背中を伝う。
自分では上手く誤魔化しているつもりだったのに。
どうにかしたいと悩む私。
彼はまた呑気にお弁当を頬張る。
そしてしばらくして。
お弁当箱はすっかり空っぽになり。
お腹いっぱーい、と呟く彼に、苦しくない?と
笑いかけてから片付けを始める。
しばらく片付けをしていると不意に彼が私を呼んで。
私は手を止めないまま返事をした。
突如彼が言い放ったのは、デートという単語。
思わず頷きかけた分、驚きも大きい。
そんなか細い声と、潤んだ瞳を向けられたら。
正直に、答えてしまう。
そんな私の答えに嬉しそうに笑うから。
それでも良いか、と思ってしまうのだけど。
やっぱり私だけ振り回されて。少し、悔しかった。
いつの間にかグラウンドに戻る5分前になっていて。
完全にオフモードのりっくんに声をかける。
駄々をこねるりっくんをなだめて、
立ち上がらせようと腕を引っ張った。
そこからは早いもので。
最高速度で走るりっくんに引きずられるように
グラウンドまで降りて来ていた。
心配そうに私の顔を覗き込むりっくん。
大丈夫だからと弱々しい笑みを浮かべる。
その時。
りっくんを呼びに来たチームメイトの声が
尻すぼみに小さくなって。
わなわなとこちらを指さし、大きな声でそう言った。
可愛い、と言う言葉を否定しようとした
私の声はかき消され。
こいつ抜けがけしやがった、裏切り者!と騒ぐ
チームメイトに、りっくんは自慢気に
私の肩を引き寄せた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。