自分の気持ちにも必死に嘘をついて。
『別れようか』と口にした私を、
りっくんがいつもの輝きを失った瞳で見ながら呟く。
恋は終わった。心は色を無くした。
だから言葉だけはスラスラと出て行って。
綺麗に振って貰う為に、
諦めがつかない終わり方をしないように。
私は自分から望んで、彼に嫌われる。
良かった。これで良かったんだ、と言い聞かせて。
卒業までもう話す事はきっと無いと悟った。
ならば彼の記憶の中の私は、笑顔で締めくくりたい。
この場に不釣り合いな程の笑顔を浮かべ。
彼に背を向け歩き出す。
私が今、無様な姿を晒しても。見ている人は居ない。
明日からは人から見て、どんなに痛々しくても
笑うから。
足に力が入らなくて、引きずるように歩いた。
貴方の隣に居ることを望む権利は、
もう私に無いから。
せめて、彼のこれからが。沢山の笑顔で溢れる事を
願うくらいは、許して欲しい。
漏れる嗚咽を押し殺しながら、涙を拭う事もせず
足を進め、自宅を目指した。
ー同じ頃。教室の中で立ち尽くす
りっくんのスマホが揺れる。
力のこもっていない手がスマホを掴み、
生気の感じられない目が画面を写した。
まさかの人物からの着信に驚く彼の視線の先には、
『椎名さん』との表示。
勘の良い彼女の事だから声を聞いただけで
分かってしまうかも知れないと電話に出るか迷う彼。
しばらく悩んだ末に応答ボタンをタップし、
耳に当てた瞬間。
興奮と焦りが入り混じった藍花の珍しい大声が。
消えていた希望に光を灯して。
狂いに狂った私達の未来を、本来の姿に戻し始める。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。