誰もいなくなった放課後の教室で、
りっくんと向かい合う。
ーそう。大変なのに。
私はこれから彼の為と言いながら、
自分の都合で彼と別れる。
目を閉じれば、全ての思い出を鮮やかに思い出せて。
朝や放課後、手を繋いで歩いた通学路での会話。
誰よりも試合で輝いていたその姿。
優しく私を呼んでくれる、彼の声。
りっくんだけを想って、生きていく。
魔法は長くは続かない。そう想いながらも落ちた恋。
解けた魔法の中から現実をすくい上げ、
彼に突きつけた。
必ず止める、そう言おうとした彼の声を遮って。
もう、あがくのはやめよう。と伝える。
意味が分かったのか、顔色が悪くなっていく
りっくん。
本当は、『嘘だよ』って抱き締めたい。
『大好き』を叫びたい。
だけど、それをしてしまったら。
次に傷つけられ、矛先を向けられるのは間違いなく
彼だ。
気持ちが揺らがないよう、
心の内側に入り込ませないよう。
偽物の笑顔の仮面を被って。
泣きそうな彼を、突き放す。
私はもう、嫌われたって良い。
そうしてまで彼のこれからを守りたいから。
その為に、嘘を吐いた。
彼の心から私と言う存在を消し去るように。
思惑通り、彼の顔が悲痛に歪んだけれど。
気にしないように、トドメを刺すように。
りっくんを傷つける、最悪の一言を口にする。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。