〈莉犬side〉
たまにある、彼女の集中モードの日。
いつも以上にキリッとした横顔を堪能するのも、
まあ。悪くは無いのだけど。
それも長い時間が過ぎれば、不満に変わって行く訳で。
徐々に、徐々に。
ちょっかいを掛ける頻度が上がって行く。
その度に目も合わせず、あしらわれれば。
悲しいし寂しい。
だから、素直に不満を口にしたと言うのに。
何度目かも分からない断り文句に、ついに拗ねた。
散々俺を待たせたのだ。
少しくらい困らせたってバチは当たらない。
そんな気持ちに任せ、璃夢に背中を向け。
耳にワイヤレスイヤホンを挿すと。
彼女は聴こえていないと思って居るのか。
こんな事を呟いた。
イヤホンを挿して居ても、音楽は流して居ないから。
周りの環境音や人の声は、それなりに聞こえる。
だからこその、破壊力だった。
大好きな人から、改めて伝えられた『好き』に。
顔が、紅くならない訳が無い。
ああ、今回も俺の負け。
バッと、勢い良く振り返りながら、イヤホンを抜いて。
驚いたように瞬きを繰り返す彼女をギュッと抱き締めて。
サラサラの髪を撫でながら、仲直りする。
俺達の喧嘩は、これくらいが丁度いい。
次の日には、『そんな事もあったね』って。
____笑い話に出来るように。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!