初デート、そして試合当日の朝。
寝坊する事無く起きた私は、余裕を持って用意を済ませる。
バスケットに詰めたお弁当を
もう一度覗き込んだ後、蓋を閉めた。
リビングの時計を見上げると、
まだ予定の時刻まで15分程残っていて。
動いていないと、何だか落ち着かない。
本当にやる事も無くなり。
行ってきますと呟いてから自宅を出て、
鍵も忘れずに閉める。
スマホはりっくんを撮るのに必要だし、
お弁当も朝早くから準備した。絶対食べて貰いたい。
浮き足立つ自分を自制しながら、学校へと足を運び。
グラウンドに着くと、
いつも以上の熱気が既に溢れていた。
そっと、邪魔にならなそうな場所に腰を下ろす。
さすがに大声で彼を呼べるほど大胆にはなれない。
心の中で良い結果が出せるように祈った。
ピーッ、と試合開始のホイッスルが鳴り響いて。
お互いのチームが一斉に動き出す。
余談になるが、りっくんはサッカー部。
しかも1年生にしてレギュラーで、
次の司令塔の要とも言われているらしい。(同級生談)
感心しながらスマホを構え、カメラ越しに彼を追いかける。
なるべく全てを捉えるつもりで、気合いを入れた。
計算し尽くされたフォーメーションで、
確実に得点を稼ぐ相手校。
ー...負ける。
そんな厳しい状況の中、
前半最後に巡って来たシュートチャンス。
それを任されたのは、まさかの彼だった。
興奮と心配が入り交じった気持ちで、その様子を見守る。
一瞬だけ、いつも柔らかく光る瞳が
鋭く研ぎ澄まされたと思うと。
次の瞬間、ボールは相手ゴールの中にあった。
わあっとチームメンバーが駆け寄って行き、
りっくんの髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
心から楽しんでいるのが、遠目からでも分かった。
思った以上の大活躍をしたこの人が、
自分の彼氏で、皆を笑顔にさせている所も。
ようやくチームメンバーが離れた所で。
前半終了のホイッスルが鳴った。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。