電話なんて初めてだな、と思いながら返事をする。
人が恥ずかしくなりそうな事を平気で言うから
困ったものだ。
電話の向こうの声はいつもよりからかうような色が
こもっていて。
やけに、楽しそうで。
つられて楽しくなる。
リスナーの皆を喜ばせるのが私達の仕事だと
声に力を込めて言うと、彼は笑った。
不思議だな。
電話の向こうにいる彼の表情が手に取るように
分かる。
きっと私が大好きなあの笑顔を今も浮かべているの
だろう。
気がつくと机の上の時計が23時半を指していて。
通話時間は2時間を超えていた。
眠そうな彼におやすみを言って
通話を終えようとすると、呼び止められて。
刺激強めのセリフが耳元で聞こえたけど、
こんなのずるいと思う。
寝れなくなってしまうじゃないか。
少しの間悶絶してから電気を消して、
天井に視線を向けて、物思いにふける。
大好きな人が傍にいてくれる幸せを。
恋という感情を知ってしまったから。
もう、以前の私には戻れない、と。
少しずつ眠気でぼんやりとして来て、
途切れ途切れになる意識の中。
何回目か分からないこの決意をまた口にして。
今になってやって来た放送の疲れを感じながら、
眠りについた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!