いよいよ試合も終盤。
前半こそ皆元気に動き回っていたが、
その表情には疲れが見え始めていて。
1点リードされたまま、残り時間は10分になった。
辺りを見渡しても、周りの女の子や観客は
諦めてしまっているように見える。
本当は、大きな声をこんなに人が大勢いる所で
出すなんて論外だけど。
ぐっ、と足に力を入れて。
すぅ、と思い切り息を吸って、口元に手を当てて、
叫んだ。
ザワっ。
いきなり立ち上がって叫んだ謎の女子高生に
皆が目を向けるけど、今だけは気にしない。
ーただし。足は、震えていて。
ほんの少し後悔しかけた、その時。
本当に一瞬だけ、瞬きすら出来ないような時間。
彼と、目が合ったような気がした。
まとうその雰囲気が、変わって。
そんな司令塔の様子に、皆がやる気を取り戻す。
祈るような思いで、その姿を焼き付ける。
そしてー...
ピピーッ!
試合終了のホイッスル。
その直前に放たれたボールは。
相手ゴールの中に、しっかりと収まっていた。
さすがにこれ以上は目立てないので、
心の中で飛び跳ねる。
女の子達がタオルを持ってメンバーの元へ駆け寄って行く。
もちろん彼もその1人で。
囲まれて笑うりっくんは凄く格好良かったけれど。
お弁当を手にしている女の子の姿を見つけてしまい。
ちくり、と胸が痛む。
泣きそうになるのを、必死で堪えて。
立ち上がりかけたその時、目の前に影が出来た。
それは、今1番会っておめでとうと伝えたくて。
でも会いたくなかった人。
不満そうに私の手首を掴んだまま呟く彼。
私は開いた口が塞がらない。
じと、っとした目で見つめられ、逃げ場も無くて。
これは大変な事になったぞ、と引きつった笑顔で
誤魔化そうと試みるけど。
それすらも予測されて、先手を打たれ。
完全に、退路を失った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。