勢いに任せて、色々な専門店をハシゴして居たら。
すっかり遅くなってしまって。
星が瞬き始めた夜空の下を、スピードを上げて歩く。
家で待つ彼に、無性に会いたくなった。
.......................................。
慣れた足取りでマンションのロビーを通り抜けると。
乗り込んだエレベーターが部屋のある階まで、
あっという間に運んでくれる。
鍵を開けて元気よく呼びかければ。
『おかえりっ!』と可愛く笑う彼が、出てくるはずだった。
...はず、なのに。
家の中は、やけに人の気配が無くて。
自分の立てる音だけが響く廊下を、そっと進む。
リビングのドアノブを掴んで、大きく深呼吸。
勢い良く、開いて...固まる。
月明かりだけが照らすリビングのソファーに。
彼が俯くような形で座って居たから。
目が合わない、何も言ってくれない。
このままでは埒が明かないから。
近付いて、肩に触れようとした手は。
りっくんによって、払われてしまった。
そして。この時点でかなりのショックを受けた私に。
彼は、追い打ちを掛けるようにこう言ったのだ。
僅かな蔑みと、大きな悲しみに満ちた瞳で私を睨み付けて。
拒絶するような、声で。
誤解だと言おうとしても、話すら聞いて貰えず。
2人で暮らす大好きな家を、追い出されてしまった。
とりあえず彼の希望通りマンションを出て。
行く宛も無く、街を彷徨う。
思い出されるのは、さっきの彼の表情。
怒って居るのに、泣きそうだった。
幸せにする、して貰うと、約束したのに。
隣に誰も居ない事が、やけに。
_____虚しかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!