第6話

Lesson2:前を向く
2,940
2022/10/12 13:41


次の日の放課後、私たちはとあるビルの地下にある
ダンススタジオに来ていた。

中に入ると壁一面に貼られた大きな鏡と、
動きやすそうなダンスフロアが広がっている。

喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
先輩、ここは?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
小さい頃からお世話になってる
師匠がいるんだ
セイラを紹介しようと思って
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
師匠…?

次の瞬間、カーテンを開けて勢いよく
飛び出してきたのは背の高いキレイな女性だった。

スタイルがよくて美脚。
それに身長は2メートル近くあり、圧倒される。
ビビアン
ビビアン
あらやだ!可愛い~~!
あたしビビアンよ
よろしく~~!!!

ビビアンと名乗るその人は、
キレイな容姿からは想像がつかない野太い声をあげた。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ビビアンさん…?
ビビアン
ビビアン
ふ~~~ん?
なるほどなるほど
あんた苦労してきたのね

じろじろと頭のてっぺんからつま先まで
私を観察するその視線は、まるですべてを
見透かすように鋭いものだった。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
え、えっと…
はじめまして…
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
ちょっと師匠
セイラが怖がってる

先輩が私を庇うように、
ビビアンさんとの間に割って入る。
ビビアン
ビビアン
あらやだゴメンナサイね〜
こう見えてあたしも生物学的には
男だから嫉妬しちゃったのかしら?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
うるせえな
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
え?ビビアンさん
男性なんですか…!?
ビビアン
ビビアン
身体はね?
分からなかった?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
すごく綺麗だったので…
ビビアン
ビビアン
あら!
嬉しいこと言ってくれるじゃない!
名前はセイラって言うの?
ハグしていいかしら♡
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
師匠ストップ!

慌ててハグを止めに入る先輩は、
ざっくりビビアンさんを紹介してくれた。

先輩曰く、ビビアンさんはドラァグクイーンらしい。

派手なメイクと女装で夜のバーなどで
パフォーマンスをしているという。

ただ、それ以外の私生活は謎に包まれており
先輩にすら教えてくれないらしい。
ビビアン
ビビアン
美しさには“ヒミツ”も大事なのよ
ミステリアスな女がモテるのと同じでね!

そう言ってビビアンさんは
バチンと音が鳴りそうな勢いでウインクをした。
ビビアン
ビビアン
で?今日は何をしに来たの?
まさか紹介だけじゃないでしょうね?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
セイラに“自分を好きになる”方法を
教えてくれないか?
師匠ならそういうの得意かと思って
ビビアン
ビビアン
ふ~ん…なるほどね
まあミズキちゃんの頼みなら
もちろんいいわよ♡
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
その呼び方はやめろって!

少し子供っぽくビビアンさんに抵抗する先輩は、
なんだか可愛く見えた。
ビビアン
ビビアン
あんたのことは5歳の頃から
見てきてるんだから
いくつになっもあたしにとっては
可愛いミズキちゃんよ
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
はぁ~…
先輩は諦めたように大きなため息をついた。
ビビアン
ビビアン
さてと…!
じゃあ早速レッスンを始めようかしら!
セイラ、あたしはスパルタよ?
ついてこれるかしら?

突然眼光が鋭くなったビビアンさんに、
私は慌てて頭を下げた。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
よ、よろしくお願いします!

せっかく先輩が幼い頃からの大事な師匠を
紹介してくれたんだから。

私も、その気持ちに応えたい…!
ビビアン
ビビアン
やる気はあるみたいね…
でもダメダメよ
まずその姿勢はなあに?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
姿勢?
ビビアン
ビビアン
ビシッと前を向きなさい!
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
は、はい!
こうですか!!
ビビアン
ビビアン
だめ、全然ダメ!!
やり直し!

どうやら普段うつむいてばかりの私は、
猫背がクセになってしまっているみたい。

背中をばしっと叩かれ、思わず転びそうになった。
ビビアン
ビビアン
いいセイラ
今から大事なことを話すから
耳かっぽじって聞きなさい
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
はい!
ビビアン
ビビアン
“美”とは前を向くことなの
心の持ち方もそうだけど
物理的な姿勢も大事なの
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
姿勢が大事なんですか?
ビビアン
ビビアン
そうよ、心と身体は直結しているの
例えば、心が落ち込むと自然と
下を向いちゃうでしょ?
ビビアン
ビビアン
それは逆も然り、
物理的に前を向くことで
心も前向きになっていくものなの
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
…!

それは目からウロコな発想だった。
ビビアン
ビビアン
もし、心を変えることが難しいなら
姿勢から変えてみましょう
私のすべてを見透かす、
その鋭い目の奥には優しさが滲んでいる。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ビビアンさん…
私、頑張ります!
ビビアン
ビビアン
あら、やっと私の目を
まっすぐ見たわね
その調子よ!!

そうしてスパルタレッスンは3日間に渡って続いた。

人生経験が豊富なビビアンさんの話は、
全て新鮮で私にとってはキラキラ輝いて見えた。

教えてくれること全てが、
ビビアンさんが実際に体験して得てきた技術。

私は初めて、尊敬する大人に出会えた気がした。
ビビアン
ビビアン
誰しも人には悩みや
コンプレックスがあるの
勿論、あたしにもね
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ビビアンさんは
自信があってキラキラしてるのに?
ビビアン
ビビアン
自信があるように見せているだけよ
例え笑って生きていたとしても、
人には言えない悩みは誰にだってあるの
ビビアン
ビビアン
ミズキちゃんにもね…
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
先輩にも?
ビビアン
ビビアン
あの子はずっと寂しい
思いをしてきたのよ
だから誰よりも寂しさには
敏感なの…
先輩はスタジオの隅からこちらの様子を見守っていた。

こちらの会話は聞こえていないのか、
こてんと首をかしげる。

そんな先輩とばっちり目が合って、
慌てて私は視線を逸らした。
ビビアン
ビビアン
あんたミズキちゃんが好きなのね
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
えっ!?
先輩なんて全然
好きじゃありません!!
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
え!?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あ…!

恋心を否定するあまり、
私はスタジオに響き渡るほど大声で叫んでしまった。

喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
(今の先輩に聞こえてた!?)

ばっと先輩の方を見ると、
なぜか寂しそうな表情をしている。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あ、あの…えっと今のは…

なんて言えばいいの?

「全然好きじゃない」なんて、
酷いこと言っちゃった?

でも、下手に訂正するのも変だし…。

私はパニックになって、
口をぱくぱくさせることしか出来なかった。
ビビアン
ビビアン
あら、あたし余計なこと
言っちゃったかしら…

しばらくスタジオには気まずい空気が流れていた。


プリ小説オーディオドラマ