第3話

ヤンデレラは恋が怖い
5,083
2022/09/16 09:00
 


喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ウィッグ…!?
「ちょっとメイク落としてくる」

そう言って、床に落ちたウィッグを拾い上げながら、
彼女…いや彼は洗面所へと消えていった。

私は現状が飲み込めず、その場で呆然とする。


綺麗な女の人が、実は男の人だった…?
ど、どういうこと!?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
いわゆる女装男子…?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
そうだよ
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
わっ!びっくりした!

突然後ろからさっきより低い声が聞こえて振り返る。

メイクを落として服まで着替えたその姿には
見覚えがあった。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あれ…?もしかして…先輩!?
3年の水瀬先輩ですか?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
俺のこと知ってるんだ?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
知ってるも何も
先輩は有名人ですよ!

その名も水瀬ミズキ、高校3年生。

その端正な顔とスタイルの良さから男女ともに
人気を集め、もし校内にイケメンランキングがあるなら
3本の指に入る程の逸材だ。

1年生のうちのクラスにも熱狂的なファンがいる。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
有名人って大袈裟な…
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
先輩が廊下を通る度に
クラスの女子が騒いでます
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
へ〜そうなんだ

特にその話には興味がないのか、
それ以上何も言わずに先輩は私をじっと見つめた。



やっぱりクラスの女子が騒ぐだけあるなぁ。

メイクなしの素肌にも毛穴一つなくて、
長いまつ毛は瞳に影を落としている。

そのせいか、どこかアンニュイな雰囲気を
醸し出している。

それに、意識して見てみるとどう見ても男の人だ。

首筋、手首、そして少し骨ばった手に喉仏。

喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
(って、私どこ見て…!)

思わず見惚れていたことに気づいて、
慌てて目を逸らした。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
やっぱ可愛いわ
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
え?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
俺のメイク
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
な、なんだメイク!
そうですよね!

びっくりした…!

私のことかと思って、危うく恋に落ちるところだった。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
もしかして
勘違いした?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
からかわないで下さい!

いたずらっぽく笑う笑顔に、また心臓が跳ねる。


あ、危ない…!

このままじゃ知らないうちに恋に落ちゃう…!
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
(だめだめセイラ!
ヤンデレの悪いところはすぐに人を
好きになっちゃうところなんだから)
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
(それに…また辛い思いをするくらいなら
恋なんてしない方がいい…)

そう言い聞かせて、慌てて恋心を軌道修正する。

ヤンデレに恋は向いてないんだから。

水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
そうだ
まだ名前聞いてなかったな
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あ…そう言えば…!

私は慌てて当たり障りのない自己紹介を済ませた。

水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
喜多川セイラ…ね
まあこれから長い付き合いになるし
セイラって呼んでいい?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
いいですけど…
長い付き合いって…?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
さっき言ったっしょ?
原石キミを俺に磨かせてってさ
つまり放課後は俺のメイクの練習台に
なってほしいってこと
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
放課後…毎日ですか!?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
もしかして嫌?
女装する男とか生理的に無理?

先輩の少し不安そうな顔に、思い切り頭を横にふる。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
思ってません!
寧ろすごく似合ってたし、
綺麗でした…
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
じゃあ決まり!
俺はメイクの練習ができるし
セイラはなりたい自分になれる
一石二鳥でしょ?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
なりたい自分…
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
ま、難しく考えず
決まりってことで!



半ば強制的に放課後の約束を取り付けられてしまった。

強引だけど不思議と悪い気はしなくて、
なんだか胸がソワソワした。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
あー、あと女装のことは内緒ね
もし他の人にバラしたら…
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
バラしたら…?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
うーん…
セイラを俺の好きなようにする
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
はい…!?
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
好きなようにメイクしたり
好きなように服を着せたりするって
ことだけど…ぷっ!
また変な想像したっしょ?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
か、からかうのはやめて下さい!!

あまりの恥ずかしさに頬がカッと熱を帯びる。
その熱くなった頬に、突然先輩の手が優しく触れた。

喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
っ…!
突然のことに思考は停止。

水瀬先輩の澄んだ瞳に見つめられ、
息をするのも忘れてしまう。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
これからよろしく、セイラ
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
よ、よろしく…
おねがいします…
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
メイクが魔法だとしたら
俺はメイク技術を身につけて
一人前の魔法使いになりたいんだ…
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
魔法使いの俺がセイラにメイクをして
シンデレラみたいに変身させてあげる
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
いや違うな、セイラは病みがちだから
ヤンデレラ?なんつって…?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ぷっ!なんですかそれ!


キメ顔で謎のキザなセリフとオヤジギャグを
かましてきた先輩に、思わず吹き出してしまった。


おかげでさっきまでのいい雰囲気はぶち壊しだ。

でも大丈夫、これなら恋には落ちない。
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
あー…自分で言ったのに
恥ずかしくなってきた…
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
あはは!
耳赤くなってますよ!
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
うわ…ちょ…本当勘弁して
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
隠しても無駄ですよ
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
でも良かった…
やっと笑ったし
水瀬 ミズキ
水瀬 ミズキ
やっぱり笑顔が一番可愛いじゃん
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
へ…!?


完全に油断していた。

ストレートな先輩の言葉は、
恋の矢みたいにトスッと私の心に刺さった気がした。


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