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第1話

ヤンデレラは今日も憂鬱
9,350
2022/09/02 09:00



べチャリ。

さっき作ったばかりの
スクランブルエッグが床に落ちた。

ううん、正しくは「落とされた」かな。

喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
 (またか…)
義理の母
やだ、ごめんなさい
手が滑っちゃって…
喜多川 ユア
喜多川 ユア
ちょっとママ!
せっかくセイラが作ってくれたのに!
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
作り直します
義理の母
義理の妹を気にかけてあげるなんて
ユアは本当に優しい子ね
喜多川 ユア
喜多川 ユア
そんなことないって
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
はぁ…

私は喜多川セイラ、高校1年生。

幼い頃にお母さんが病気で他界し、
中学2年の時にお父さんが再婚した。

その日を境に義理の母と姉から、
毎日こうして陰湿ないじめを受けている。


お父さんは仕事ばかりで私が
2人にいじめられていることには全く気づいていない。

言ったって、どうせ信じてくれないだろうけど。
義理の母
週末またホームパーティーを開くの
だから掃除と料理と雑用は
あなたに任せるわ、いいわね?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
わかり…ました

断ったらどうなるかなんて、痛いほど分かってる。

だから私は頷くことしかできない。
喜多川 ユア
喜多川 ユア
安心して
準備は私も手伝うから

そう言って手伝ってくれたことは一度もない。

本当にこの親子は厄介だ。

義理の母は「完璧な母親」を演じる為、
ホームパーティーを頻繁に開いては自慢の娘を褒め、
血の繋がっていない私はまるで召使いのように扱う。

それに義理の姉は​───。

喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
(ううん…
これ以上考えたって
今の環境は変わらないし…)

頭を振って無理やりネガティブな考えを追い出した。

それに、私には心強い味方がいるから大丈夫。




喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
おまたせ!ごめんね
ちょっと朝ご飯で手こずっちゃって
佐々木
おはよ!
また義理のお母さんに
いじめられた?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
うん…でも大丈夫
もう慣れっこだから

決して派手ではないけど、
私に屈託のない笑顔を向けてくれるのは
クラスメイトの佐々木くん。

毎晩電話で相談にのってくれたり、
卑屈でメンタルの弱い私を慰めてくれたりする、
初めての彼氏だ。
佐々木
今日って…
本当に家行っていいの?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
う、うん!

そう、今日は初めての彼を家に招く一大イベントの日。

放課後に一緒に宿題をするという名目だけど、
なんだかドキドキする。
佐々木
放課後、楽しみにしてる

そう言って佐々木くんは耳を赤くして
早足で教室へ入っていった。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
今日一日ずっと私のことだけ
考えていてほしいな…

なんて。


​──── キーンコーンカーンコーン。

あっという間に日は暮れて、
授業終わりのチャイムが鳴った。

緊張しつつも2人で並んで家へと向かう。



玄関の鍵を開けようとしたその時​、
ガチャリとドアを開けたのは義理の姉だった。
喜多川 ユア
喜多川 ユア
おかえり、セイラ!

端正な顔立ちに、人好きのする愛嬌のある笑顔。

道ゆく人は誰だって振り返る美少女、
それがお姉ちゃん。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
お姉ちゃん…
今日は部活じゃないの…?
喜多川 ユア
喜多川 ユア
体調が悪くて休んじゃったんだ
えーっと、そちらは?
佐々木
お、俺は1年の佐々木です!
よろしくお願いします!

私にも見せたことのないような真っ赤な顔で
義理の姉に挨拶をする彼。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
は、早く部屋に行こう!

なんだか胸がざわざわして、
私は慌てて佐々木くんの手を引っ張った。


お姉ちゃんは危険だ。

だって今まで、私の好きになった人たちはみんな
お姉ちゃんの綺麗な顔と愛嬌のある笑顔に
一目惚れしたんだから。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
(このままじゃ
始めての彼氏まで奪われちゃう!)

そんなネガティブな考えがよぎって
急いで彼を部屋に引き入れ、ドアを閉めた。

佐々木
大丈夫?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
う…うん
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ごめん、ちょっとお茶入れてくるね!

キッチンに向かい、朝仕込んでおいた
冷たい麦茶をコップへと注ぐ。

さっきの佐々木くんの反応、変だった。
もしかしてお姉ちゃんのこと…。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ううん…今まではただ
「好きな人」が奪われただけ
佐々木くんは彼氏なんだし!
大丈夫、大丈夫だから…

そう言い聞かせて不安な心を落ち着かせる。

深く深呼吸して、
お盆を持ってゆっくりと部屋へと戻った。


でも、女の勘は怖いほど当たるってことを
私はすっかり忘れていたんだ。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
おまた…せ

ガッシャーン!

お盆がするりと手から滑り落ち、コップが割れた。

あまりにも衝撃的な光景を見ると、
人は全身の力が抜けちゃうみたい。
佐々木
あ…これはその…

目に映ったのは、佐々木くんがお姉ちゃんを
ベッドに押し倒している光景だった。

それも私のベッドに。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
な、にしてるの?
声が思うように出ない。
喜多川 ユア
喜多川 ユア
…ごめんね
セイラの彼氏貰ってもいい?
そう言ってニヤリと笑うお姉ちゃん。

普段の清楚な印象からは想像できない
まるで牙を向いた女豹のような顔。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
もら…う?
どういうこと?

佐々木くんへと視線を移すと、
彼は気まずそうに私から目をそらした。
佐々木
お前、重いんだよ
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
え…?
佐々木
毎晩毎晩、電話してきて
正直面倒なんだよ
メンタル弱いしネガティブだし
付き合ってて疲れる
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
そんなこと今まで一言も…
佐々木
言えるかよ!お前ヤンデレだろ?
束縛激しいし、そんなこと言ったら
何されるか分かんねえし!
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
ヤン…デレ?
佐々木
そうだよ
お前みたいに頻繁に
LINEとか電話してきたり
束縛キツイ女のことを
ヤンデレって言うんだよ
もしかして気づいてなかった?
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
そんな…
佐々木
正直今日一発ヤッたら
別れようと思ってたんだ
佐々木
でもヤらなくてよかったよ
ユアさんに会ったら
一目惚れしたし…
喜多川 ユア
喜多川 ユア
ごめんね、セイラ

そう言ってお姉ちゃんは細くてしなやかな
白い腕を佐々木くんの背に回した。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
いや…っ!

これ以上、何も見たくない。
これ以上、何も聞きたくない。
これ以上、私から何を奪うつもりなの?


私はその場から逃げるように家を飛び出した。


靴も履かずに固いアスファルトを走る。
行く宛もなく、ただひたすらに逃げ出したかった。


日が暮れて街に明かりが灯り始める頃、
私はとある橋にたどり着いた。

大きな橋の下には川が流れ、海まで続いている。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
もう、いやだ
お母さんに会いたいよ…

ここから身を投げれば、楽になれるのかな。

天国にいるお母さんに会えるのかな。



この世界も、ネガティブな自分も大嫌い。

この世に私の味方なんていないし、
私を必要としてくれる人なんていない。

ならもういっそ、全部終わらせよう。

楽になりたいから​───。

??
??
待って!!

ぐいっと強い力で腕を引かれ、
誰かの胸に抱きとめられた。
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
え?
??
??
原石みーっけ!
喜多川 セイラ
喜多川 セイラ
はい?

見上げると、目を見張るほど綺麗な女の人が
私を抱きしめていた。


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