ガサガサと物音が聞こえ、目を覚ます。
音は洗面所のほうから聞こえてくるようだ。
アウストゥード様は、もう天上に戻ったはずだけど……。
そんなことを考えていると、また微かに物音が聞こえた。
まさか、また戻ってきたわけじゃ……。いや、そんなことあるかな……?
でも、アウストゥード様ならやりかねん……。
昨日の別れに感傷的になる暇もなく、慌てて洗面所の様子を見に行く。勢い良くドアを開いた先には……。
「あっ、起きたー? おっはよー!」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そこには、短い白髪の男が……。
「へーぇ! これが僕チャンの雲孫の昆孫かー!」
「ウンソンの……コンソン?」
このやり取り……。ものすごく心当たりがある。まさか……。ニコニコ笑う白髪の男をじっと見つめていると、その男は口を開く。
「やっほー! 子孫チャン、元気してる? 僕チャンはねー、天上からやって来たキミの先祖、ウェルーメン・オプターナだよー!」
おちゃらけた口調でそう言って、横ピースを決める。パチっとウインクをした目の横に星が輝いて見えたのは、錯覚だろうか……。
「で、出た……。ウェルーメン様……」
アウストゥード・オプターナの長男であり、魔法分析学の父、ウェルーメン・オプターナ……。またもや、ビッグネームの降臨だ。軽く目眩がする。
アウストゥード様と同じ……いや、それ以上にクセの強い話し方……。教科書の肖像画の厳格なイメージはどこへやら……。
「あのー。どうしてまた、ご先祖様が……?」
「よくぞ聞いてくれましたー! 実はねー、パパ上が地上から戻ってきたんだけどー、僕チャン達先祖一同のもとに来るなり、楽しそうに地上での体験を話してたんだよねー!」
ウェルーメン様は目を輝かせ、満面の笑みで言う。
アウストゥード様の土産話……。何となく想像ができてしまう。
「そこで、それを聞いた僕チャン達は『子孫に会いに行きたーい!』って大騒ぎしたんだよー。だけどねー、地上に降りられるのは一人だけって言われちゃってさー。だからねー、『誰が地上に降りる?』ってちょっとケンカになっちゃったのー……」
「は、はぁ……」
揉める理由が天上らしすぎる……。平和なのか否か……。いや、天上はきっと平和に違いない。
「そんなゴタゴタの中で、パパ上から僕チャンが一番適任だって指名されてね……。それで、何とか丸くおさまったってワケ」
「え、えぇ……?」
ウェルーメン様が適任って……。私は一体、アウストゥード様にどう思われていたんだろう……。
「ってなワケで、これからしばらくの間よろしくねーっ!」
そう言ってまた横ピースを決める。やれやれ。今回もクセが強いもんで……。
そんな訳で、私とご先祖様との不思議な生活が再び始まってしまったのである……。
「もう! 勘弁してよ、ご先祖様!」
「勘弁してよご先祖様!」完
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!