第6話

【生活3日目】薬草調合だよご先祖様!
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2021/08/31 14:55
「薬草じゃー! 薬草取るんじゃー!」
「何を今更はしゃいでいるんですか? 薬草採取くらい行ったことあるでしょう?」
 守護霊ご先祖様、アウストゥード様との生活3日目。私達は、学校内にある薬草園に来ている。
 アウストゥード様は姿も消さずにそこらじゅう走りまわって飛び回って……。いるのが私だけで良かった……。だからこそ、なんだろうけど。
「いやー、久々の薬草園なもんで、つい……」
 300年は、果たして“久々”なのか……。
「それにしても、やっぱり地上の植物がいちばん美しいのう。天上にも美しい自然が溢れておるんじゃが……。地上の植物の美しさには敵わんよ」
 あ、死後の世界って……あるんだ。
「そんなことより! 急いで採取しちゃいますよ! 帰ったら調合するんですから!」
「そうじゃったそうじゃった。ところで、どれを取るんじゃったか……」
「これです。えぇと、アウストゥード様は上の3種類を、私は下の3種類を取るようにしましょう」
 必要な材料とそれらの分量が書かれたメモを見せる。アウストゥード様はそれに目を通す。
「ふむふむ。分かった」
「あっ、取った物はこちらに入れてください。種類ごとに分けないといけないので、3つお渡しします。籠いっぱいになるまで取れば、分量は足りるはずです」
 そう説明をしながら、握りこぶしくらいの直径で筒状の、小さな籠を渡す。
「なるほど、便利じゃのう」
「じゃあ、集め終わったらまたここに戻って来てください」
 アウストゥード様と別れ、薬草集めを始める。
 ここには週一で通っているので、薬草の生えている場所もほとんど覚えている。3つの籠がいっぱいになるのには、そう時間はかからなかった。
 最初の場所まで戻ると、アウストゥード様の姿を見つけた。
「おぉ。お帰り、なのじゃ」
「流石、早いですね」
「わしが通っていた頃と基本の配置が全く同じだったからのう。迷子にならずに済んだぞ」
 そう言えば、この学校は300年以上前に始まったと聞いた。そんな頃からこの薬草園があったのか……。
「わしはここで薬草学を学んでおった。それ故、ここにはよくお世話になっていたのじゃ……。懐かしいのう」
 ほら。こういう時に聞く思い出話だと、ほっこりするんだよ。
「さぁ、ここからが本番ですからね。帰ったら早速、薬草の調合ですよ!」
「調合じゃー!」
「あぁっ、あー! そんなに勢い良く入れると……!」
「ええい、大声を出すな、手元が狂う! 集中しておるのじゃ!」
 これでもかと目をかっ開いて、プルプルと震える手で粉を入れるアウストゥード様。ぜひとも、この文ごと教科書に載せたい。
「ちょっと! 混ぜ方が! 粉がそこらじゅう飛び散ってるじゃないですか!」
「何じゃこれは! 硬くて思うように混ぜられぬ……」
「あ、後は私がやりますから!」
 やれやれ。このままじゃ、生地が無くなる。
「はぁ、はぁ……。わしは料理が出来ぬと言ったであろう……?」
「いやー、薬草を使えば大丈夫だと思ったんですけどねー……」
「ふぅ、ちと疲れた。わしは少し休むぞ……」
「はーい。ごゆっくり」
 一人になった台所で、作業を再開する。形を作って、後は焼くだけ……。
「何じゃ、良い匂いがするのう……」
「ちょうど良かったですね。今、出来上がりましたよ」
「むっ……。これは、何じゃ?」
 テーブルの上にあるものが何か分かっていないようで、首を傾げている。
「クッキーですよ? アウストゥード様の時代にもあったのではないですか?」
「これが……クッキーか? わしの大好物じゃから、あったのはあったが……。随分と見た目が違うのう……」
 アウストゥード様はクッキーを一つ手に取り、不思議そうに見つめている。
「とにかく、食べてみてください」
 アウストゥード様はクッキーを一口でほおばる。よほど美味しかったのか、咀嚼するたびにどんどん表情が綻んでいく。
「う、美味い……。この良い香りは……薬草か?」
「はい。先ほど取ってきた薬草を混ぜました」
「ほう、薬草の香りが際立っていて良いのう。薬草を混ぜるという発想は、わしの頃は無かったぞ」
「ちなみに……アウストゥード様の時代のクッキーとは、どのようなものだったのですか?」
「もっと薄かったのじゃ。これの半分くらいの薄さでのう……。少しでも焼き時間や焼き加減を間違うと、炭になってしまったんじゃ……」
 なるほど、そういうことか。アウストゥード様の料理下手というのは、自身のせいでないのかもしれない。
 いや、今日の様子を見る限り、手際も少々、関係していそうだ……。

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