第3話

【生活1日目】同居開始だよご先祖様!
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2021/08/27 04:16
「ふむ、料理の腕も優れているとは……。流石じゃのう!」
「あ、ありがとう……。ございます」
「ほら、お主の作った料理じゃろう? せっかくこんなに美味いのに冷めてしまうぞ。食べよ食べよ」
 私が作った少し遅めの朝食を勢いよくかきこむ一人の男、アウストゥード・オプターナ。私の先祖である大魔法使いだ。
 そんな、大物なんて言葉で片付けることのできない人物を目の前にしている私は、図らずとも緊張でガチガチになってしまい、ぎこちない動作で食べ物を口に運ぶ。
 さて、どうしてこんな状況になったのかというと……。
 これは、今朝の出来事まで遡ることになる。
 いつも通りの時間に目が覚め、顔を洗うために洗面所に向かう。
 寝ぼけ眼で水を出して桶に溜め、顔に数回パシャパシャとかける。冷水で目が覚めるのを感じてからでないと私の一日は始まらない、と言っても過言ではない。
 洗顔を終えて、洗面所をあとにしようと後ろを振り返ると……。
「お早う、なのじゃ」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 長い白髪はくはつの男が……。
「ヘ、ヘンタイ! 不法侵入っ! ド、ドロボー!」
 滅茶苦茶なことを叫びながら持っていた桶で一発殴ろうとしたが、いとも簡単に受け止められてしまった。
「ふむふむ。わしの雲孫うんそん仍孫じょうそんになるおなごか。元気に成長しておるようじゃのう」
「ウンソンの……ジョーソン……?」
「ざっくり言うと、わしのずぅーっと後の子孫、という意味じゃよ」
 つまり、この人は……私のずぅーっと先祖にあたる人、ってこと――?
「あ……!」
 冷静になってきて分かった。この顔、この服装……ものすごく見覚えがある。
 いや、見覚えがあるなんて領域じゃない。この人は……。
「ア、アウストゥード……オプターナ……様……?」
 恐る恐る、その人物の名前を呼ぶ。同時に、カタカタと体が震えるのを感じる。
「そうじゃよ」
「あ……あぁ……」
 その返事を聞いて、クラクラと目眩がする。
「ん? どうしたのじゃ……? おい!?」
 これは気のせいなんかじゃない。本当に、目眩、が……。
「おっ、気がついたか。良かった良かった」
「ひゃ!」
 のぞき込んでくるその顔に、再び悲鳴をあげる。
 大魔法使い、アウストゥード・オプターナが……なぜか、目の前にいる。白髪碧眼に、色白の美しい肌、すらりとした体型……。肖像画よりも圧倒的に美しい……。そして、私は、そんなイケメンにお姫様抱っこをされている……。あぁ、また気絶しそう。
「これ、夢……?」
「いいや。正真正銘、現実じゃよ。確かめてみるか?」
 私を降ろした後、アウストゥード様が何やらぶつぶつと言いながらかざす手には、色とりどりな火花がパチパチと……。これはまずい。
「い、いえ……。結構です」
「まあ、夢だと思うのも無理はないじゃろうな」
「それにしても、アウストゥード様はどうしてここに? そもそも、何とお呼びすれば……?」
「答えやすいものから答えていくぞ。まず、わしのことは何とでも呼べば良い。お主がどう呼ぼうが自由じゃ。ただし、ヘンタイだとか不法侵入だとか、ドロボーだとかはやめて欲しいぞ」
「すみません……」
 さっきの事、結構ダメージを負ってしまっているみたいだ……。
「それで、次じゃ。どうしてわしがお主の前に現れたかということじゃな?」
「私、前日に守護霊降霊術を行ったのですが……。それが関係していたりは……」
「おや、そんなことをしておったのか。守護霊は術を使われても気づかないのか。これは新発見じゃな。おっと、すまんすまん。それで、わしがここに現れた理由じゃが……」
 ごくりと生唾を飲み、アウストゥード様の次の言葉を待つ。
「実は、わしが生まれて今年で350年経つのじゃー! その記念として、少しこの世界に戻ってきたということじゃ。世界がどのくらい変わったかということも見てみたかったし、良い機会だと思ってな」
「なるほど、そういうことだったんですね」
 大変失礼だということは重々承知していますが、どうしても言わせてください。
 理由が可愛い。ものすごく可愛い。
「しばらくこの世界に滞在する予定じゃ。それまでお主と暮らすことになるぞ」
「えぇ!?」
「よし、そうと決まれば早速朝飯じゃ!」
「えぇ!? いや、そろそろ作ろうとは思ってましたけど……。えぇ!?」
 いや、まだ何も決まってないんですけど……。でも、まあいいや、守護霊だし。
 ってか守護霊って、ご飯食べるの……?
「ちなみにわしは飯が作れぬ! 悪いがお主に作ってもらおう!」
「えぇ!?」
 ……と、まあ、そんな訳で、私と守護霊ご先祖様のアウストゥード様との不思議な生活が始まったのである。

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