第42話

#「地獄で貴方と踊りたい」オットー夢
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2025/06/19 16:17 更新



  _______ 一つだけ、後悔に近いモノがあった。



あなた
ぁ ………
ナツキ・スバル
………。


ひゅう、と冷たい風の音が聞こえて、
暗闇の夜空の中、視界が白に染まっていくのが分かる。

寒い寒い、雪の降る夜だった。

フードで隠しきれない口元からは冷気が入り、
スバルが吐いた息は水滴へと変わって白色に染まる。



白い雪の中、子供が一人立っていた。
否、子供というほど幼くはない。
幼く見えるのは___子供のように、怯えていたからだ。


子供というのは目に映る全てが無知である。
それに興味を惹かれる子供もいるが、
その全てに恐怖を抱く子供もいる。

スバルにとって、その女はそんな子供に見えた。
世界全てが恐怖に染まり、
怯えて泣き叫んでいるような子供に。



あなた
………


スバルはその女の足元に視線を移す。

そこにはもう見慣れた肉塊が転がっていた。
普通の人間であった頃であれば、
今頃悲鳴でもあげていただろうか。

……今更考えてもどうしようもないことだ。
スバルはため息をつき、その息が白く染まるのを見る。


ナツキ・スバル
___ お前が、殺したんだな?


確認だ。そう、ただの確認だった。
だが、それに女はひどく怯えたように
スバルを見る。

その濁りきった眼に、自分とは思えない姿をした
『傲慢』が映り込んで、
スバルはまた小さく息を吐いた。




あなた
、たし、が…


_____ ああ、もう駄目だな、と思った。

とっくにこの女は壊れている。
利用価値も何も無い、どうしようも出来ない女だ。

冷静な意識があれば、その濁った目もいいし、
一度人を殺した人間は二回目の躊躇が少ないから
仲間にでも引き入れようかと考えていた。が、
これは駄目だ。使い物にならない。

そう思って、スバルが姿を見られた為
女を殺そうとした瞬間____、



あなた
____ ごめん、なさ …… おかあさ ……




ナツキ・スバル
_______。


「ああ」と、掠れた吐息のようなものを
スバルは吐き出した。

  _____ 最悪な気分だ。

此奴が、快楽を求め両親を殺した
猟奇殺人鬼であればよかった。
それなら、スバルだって躊躇なく殺せたはずだった。


元々、子供は嫌いじゃない。懐かれる方だ。
自分を好いて懐いてくれる子供は、
どうにも嫌いになりきれない。

そんな子供に見える女に、
スバルは唇を強く噛み締める。



_____ 殺したくない。否、殺せない。

せめて、「お母さん」なんて言わなければ、殺せたのに。




ナツキ・スバル
______ ごめんなぁ、
ナツキ・スバル
俺は、お前を、殺してやれない。




_______ あの時女を殺せなかった。


そして、利用して、罪を重ねさせ、その手を汚させた。


それが、スバルの___魔女教大罪司教『傲慢』の、
ただ一つの後悔で。




ナツキ・スバル
お前は、エミリアが王となる国で、
幸せに生きてくれればいいよ。
ナツキ・スバル
お前の罪は、全部、俺の罪だから。


そんな女をあの商人に救わせることだけが、
スバルの出来る唯一の贖罪だった。






『死の商人』
______ それはまた、
随分と面倒な依頼ですね。


『死の商人』は私の要求を聞いて、
表情を顰めたままそう答えた。




___ 私は、生きてはいけない人間だ。

あの人によって生かされて、
生きる意味を与えてくれたことには感謝している。

けれど、私は、幸せに生きる権利なんてないし、
あの人がいなくなった今、
生きる意味を与えてくれる存在も消えた。



ずっと、死にたかったのだ。死んで、楽になりたかった。


私を殴ろうとする両親に、初めて反抗した夜のことを、
ずっとずっと覚えている。



両親を突き飛ばしてしまった刹那、
「どうしよう」と思った。

ゴツンと鈍い音が聞こえて、
両親の怒鳴り声が止んで、
目を開けたら両親が死んでいたあの瞬間。

あの時から、ずっと_____死んでしまいたかった。


『死の商人』
死にたいのなら一人であの
火の海に飛び込んでみてはどうでしょう。
あなた
私、弱虫だから、
自殺がどうしても怖くて出来なくて。
『死の商人』
他人に殺される方が
ずっと怖いと思いますが。
あなた
貴方なら、怖くないかなって。


私がそう言うと、また彼は顔を顰める。
心底嫌悪感を感じたようなそんな表情が、
何故だか面白くて笑みがこぼれた。

あなた
… けど、
あなた
貴方が人を殺すことが嫌なら、
私は自殺します。


ちゃんと、本気だった。

彼が一言でも「嫌だ」と言うのならば、
私は確実にあの炎に飛び込むつもりだった。

_____そう。彼が、それを口にしたのなら。



『死の商人』
嫌ではありませんよ。
『死の商人』
… 慣れないだけです。




_______ それは、きっと言い慣れた嘘だった。




人を殺すことを何とも思わない人間は、
何人も見てきたから分かる。
あの青髪の少女だとか、色気のある女性とか。

けれど、彼は違う。彼のその眼は、
嫌なことを嫌じゃないと押し込んで、
平気なフリをする人間の眼だ。


  それを分かっていながら、
彼にこんなことを頼む私はきっと大罪人なのだろう。

それでいい。__私は、地獄に堕ちるのだから。


『死の商人』
地獄みたいですね。
あなた
こんな幸せな地獄なんてないでしょう。


彼の手のひらが私の首に回る。

手入れもろくにされていない荒れた手のひらが、
灼熱よりも何よりも、きっと暖かかった。

あなた
いつか、昔は。
あなた
綺麗なドレスを着て、好きな人と踊って、
そんな日々を夢見てました。
あなた
けど、そんな夢より、
ずっと今の方が幸せです。
『死の商人』
…… 


遺言のようなものを傲慢にも語りかけると、
彼は数秒間だけ黙り込んだ。

『死の商人』
…… どうせ、貴方も僕も、
同じ地獄に落ちるでしょう。
『死の商人』
もし、地獄でまた逢えたら、
僕で良ければお相手しますよ。
あなた
_____。


______。



その言葉の意味を理解するのに数秒かかって、
やっと彼の優しさを理解する。
そして、呆れた表情をした彼を視界に映し
私は朗らかに笑った。



きっと、本当は幸せになるべき人だったのだろう。


優しくて、たまに残酷で、現実的な考えをする人。
出会う場所が、選択が、もしも違っていたのなら
貴方は幸せな人生を送れる人だった。


あなた
地獄で商人さんと踊れたら、
きっと楽しいでしょうね。
『死の商人』
地獄なんて嫌な想像しか出来ない場所に、
一つくらい希望があってもいいでしょう?
『死の商人』
それで。言い残すことはもう十分ですか。


私の首に回った暖かい手が熱を持ち、
力が入るのが分かった。

  周りを囲む炎の温度がじりじりと頬を蝕んで、
熱さからの汗がお互いの額に流れる。
彼の灰色の髪の毛も、
いつもより少しだけ癖がついていた。

あなた
… 商人さん、
あなた
最後に、名前を、
教えてくれませんか。


そう言うと、
彼は「___」と少し放心したような表情をして、
瞼を数秒間だけ閉じた。
彼の睫毛が熱風に揺らされるその数秒が、
私には数時間のように感じられる。


『死の商人』
____。


彼は一つだけ溜息をついて、
「もうどうでもいいか」と割り切ったように口を開く。


オットー・スーウェン
______ オットー・スーウェン。



一瞬。ほんの、一瞬だけ。

熱風でその髪が揺らめいて、
灰色の男が鮮やかな色をしたように見えた。


服装は緑の外套を纏っていて、
瞳の青色が濁りを感じさせないほどにきらりと光る。
___ そんな、夢のような光景を。


『死の商人』
もう、捨てた名ですが。
最後に使うなら、ここがいいなと。


一つ瞬きをすると、
その光景は夢のように消えてしまった。

けれど。それでよかった。
彼の、きっと正しく歩んだ先の、
幸せになる未来を見れたような気がしたから。


  ___ おかげで、決心だってついたし。


あなた
オットーさん。


声が震える。今まで生きてきた中で、一番怖かった。
両親を殺した時より怖いのだから、
やはり自分は醜い人間なのだと思う。


でも___恐怖よりずっと、歓喜があった。



あなた
___ ごめんね。


___ 舌を、勢いよく噛みちぎる。


口元から猛烈な痛みが___
否__痛みというより、熱さに近かった。

燃えているかのようなひどい熱さが広がって、
生理的な涙が目に浮かぶのが分かる。
視界が赤色と灰色で滲んで、瞬きをすると涙が溢れた。


口からは鉄の味と燃えるような熱さが広がって、
人間が耐えられる痛みの限度を超えたのか
意識が黒く染まっていく。

『死の商人』
_________ は、


意識が途切れるその瞬間に、
『死の商人』_____否、オットー・スーウェンが
反射的に私を抱きとめた。

  本当に、優しい人。そんな人の手を、
私なんかの汚い血で汚してしまう訳にはいかないのだ。

怖かった。すごく、怖かったけど。
貴方に抱きとめられて死んでしまえるなら、
それはきっと、何にも勝る幸福だった。


  目を閉じる。暗闇だ。暗闇に包まれると、
あの雪の夜を思い出す。
けれど、あの夜とは決定的に違う点があった。



_______ ああ、暖かい。



貴方がいると、どんな地獄も
きっと幸せな時間になるのだろう。

こんな幸せな地獄、もっと早くに堕ちていればよかった。





恋になり損ねたような感情を
夢主はオットーに向けていたし、
多分オットーもそんなに夢主は嫌いじゃなかったはず
  最初ら同族嫌悪してそうだけど、
途中で性根の普通さに気付いて
オットーは夢主のことを嫌いになりきれなくなったとか

だとしても優しすぎたか



スバルにとって、
フェリスは元々壊れてたから再利用感覚で拾い、
メィリィやエルザは元々人殺しに躊躇が無かったから
人を殺されるのにも利用するのにも罪悪感は無く、

ユリウスは何の罪もないのに殺したから
何かしら思うところはあるだろうけど、

力もあり地位もあり名声もあり、
最後まで騎士として高潔に死んでいったから
他人事感も強くてそこまでだったと思うんです


けど夢主は事故で殺人を犯し、
動揺している普通の人間で、

そんな女を利用して手を悪に染めさせた後悔は
元々一般人だったスバルならあるんじゃないか…って
思って書いてますが解釈違い注意



異世界に行って、
スバル以外全員何かしら特出した点があり、

「いい思いしてきたんだから俺とエミリアの為に死ね」
的な感情もスバルにはあったと思ってるんですが、
夢主はなんのいい思いもしてないのもあり
唯一の後悔とかになっててくれたらうれしい






アヤマツはいいぞ

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