第3話

先生
504
2018/06/10 10:58
その日の夜、
あの日と同じ夢をみた。

『あぶない!』
『おい!、、!や、、!』
『、、!や、、!し、だら、、、、んねん!』

あの日みたいに、
叫んでるのに、
大きな声のはずなのに、
はっきりと聞き取れない声。

それに加え、
映像が付いていた。

人が行き交う中、
誰かが走っている。

その誰かを呼び止める声。

「はっ、」

目が覚めた。
体が微かに震えている。

むくりと起き上がると、
また頬に涙が伝う。


確かに怖い夢だった。
なのに、何も覚えてない。

情景も音も、
何もかも。

「はぁ、」

とため息をつくと、
カバンにつけた赤色のお守りが
目に入った。

『俺、重岡大毅!!一応3年やで!!』
『ん!これあげる!』
『素直になりぃや!』

頭の中で
彼の声が繰り返し再生される。

なんだか、無性に彼に
会いたくなった。



「失礼しまーす!桐山せんせー?」

職員室に入り、
中を見回す。

桐山「お〜!あなた〜!!」

口におにぎりを詰め込みながら
片手を上げ、
ちょいちょい、と手招きする。

桐山先生。
25歳独身。
(こう見えて)運動神経が良く、保健体育の先生。
確か、3年C組の担任だった気がする。


「はい、保体のノートです!」

机の上にのせる。

桐山「さんきゅ!」

「いえいえ、」

軽く会釈をし、
帰ろうとしたとき、

「あ!そーだ!」

彼のことを思い出した。

桐山「ん?どした?」

「桐山先生って3年の担任ですよね?」

桐山「おん、そやで?」

不思議そうに
首をかしげながら答える桐山先生。

「重岡くんって分かりますか?」

桐山「重岡ぁ?聞いたことないなぁ。」

眉間にシワを寄せる。

「背が高くて、かっこいい感じの、」

桐山「小瀧ちゃうくて?」

「はい。」

桐山「えー、重岡、重岡、重岡、」

んー、と天井を見ながら
考える桐山先生。

彼もそんなことしてたな。
なんて、彼の姿を
思い浮かべる。

桐山「重岡、重岡、重岡、重岡、」

なにかの呪文のように
何度も言う。

そんな時、
職員室に入ってきた中間先生が、

中間「重岡?」

会話に加わった。

中間先生。
27歳独身。
日本語、英語、中国語の3ヶ国語が喋れるマルチリンガル。
頭がいい代わりに、運動ができない。


桐山「重岡って3年におる?」

中間「左目の下に笑窪ができるやつやろ?」

「は、はい。」

中間先生は桐山先生の
隣の席の椅子に座り、
懐かしそうに微笑んだ。

桐山「そんなやつおったっけ?」

中間「おん。おってん。昔。」

「昔」というワードに引っかかりながらも

中間先生の話を聞くことにした。

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