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第1話

太陽の下
730
2018/06/10 10:50
ジリジリと照りつける太陽の下で、
私は「彼」のお墓の前で手を合わせる。

今日は「彼」の命日だ。


「夏休みになりました。大学に入って2回目の夏休みです。時が経つのは早いですね。」


ふふ、と1人で笑う。

だけど、
なんだか、
隣で、


「ホンマやなぁ、」


なんて言う彼と一緒に
笑ってるような気がした。





私と彼が出会ったのは
今から4年前。

あの日も今日のように、
太陽が照りつける暑い日だった。











高校1年の夏。

些細なきっかけで母と喧嘩し、
家に帰るのをためらっていた日。

教室からぼんやりと
太陽の下で、汗だくになりながら
走り回る野球部を見ていた。


下校時刻まであと1時間半。
学校にいられるのも、あと1時間半。

「帰らなきゃ行けないのかぁ、」

大きなため息をつき、
机に突っ伏していると、
教室に、ガラッ、とドアが開く音が響いた。

慌てて起き上がり、
ドアの方に目を向ける。

ドアの前に立っていたのは、
1人の男子生徒だった。
?「用事ないなら帰らなあかんで?」

「あ、すみません!」

すぐ帰ります!
と言いたいけど、
やっぱり帰りたくなくて、
口ごもっていると、

ドアの前に立っていた人は
教室に入ってきて、
私の前の席に後ろ向きに座った。

チラ、と名札を見ると、
重岡という文字が目に入る。

重岡「帰りたくないん?」

顔を覗き込みながら聞いてくる。

私がコクン、と頷くと、
彼はニコリと微笑み、

重岡「ほな、俺が相手したるわ!」

と言った。

「え、でも、あなたは帰らなくて大丈夫なんですか?」

慌てて聞くと、
彼は、

重岡「俺はええねん!特別やから!」

と得意気にニッ、と笑って見せた。
だけど、
目は、
目の奥だけは、
少しだけ寂しそうだった。
重岡「俺、重岡大毅!!一応3年やで!!しげとか、重岡とか、好きに呼んでなぁ!!」

左目の下に笑窪をつくり

重岡「よろしゅう!」

と左手を差し出された。

「よろしく、です、」

私も左手を出し、
彼の左手を握る。

すると彼は嬉しそうに
ブンブンと左手を上下させた。

私も自己紹介しようと思い、
口を開くと、

重岡「あなたちゃんやんな!?」

目を輝かせ、
そう聞いてきた。

「えっ、」

重岡「あれ?ちゃうかった?」

彼はキョトン、とした顔になる。

「いや、あってるんですけど、なんで名前、?」

重岡「入学式んとき、ええ名前やなーって!」

「ありがとうございます、?」

ニヒ、と歯を見せたあと、

重岡「あと!」

と、私の顔の前に
ピン、と人差し指を立てた。

重岡「小瀧がようお前の話してんねん!」

得意気にニッ、と笑う。

「えと、誰、ですか?」

恐る恐るそう聞いてみると、

重岡「えー!!生徒会長の名前覚えとらんの!!」

と目を丸くされた。

「え、すみませ、」

謎の罪悪感が湧き上がってくる。

重岡「小瀧望!!覚えたって!!」

「はい、」

なんで生徒会長さんが
私なんかの話をしてるんだろう。

あ、まさか、
何か気に触るような事でも!?

心当たりないけどなぁ、

なんてことを考えていると、
彼が私の顔を不思議そうに覗き込んできた。

重岡「なんで生徒会長が私の話を?って顔しとる。」

「え、」

重岡「なんでわかったの、って?」

「えぇっ、」

私の心の中を
見透かしているかのように
私の感情を言い当てられる。

重岡「ははは、おもろ!」

どうやら私は
彼に遊ばれているようだ。

重岡「わかりやすいな、あなたちゃん!」

「ディスってます?」

重岡「褒めてる褒めてる!!」

ニコニコと楽しそうに話す彼を見て、
悪い人じゃないんだろうな、
と思った。
重岡「あ!そや!!」

何かを思い出したかのように、
パッと立ち上がった彼。

「どうしました?」

彼の顔を見上げると、

重岡「なんもない!」

ってまた椅子に座った。

「なんですか、それ、」

ふふ、と笑みをこぼすと、

重岡「あ!!」

私の顔を指さして
大きな声を出した。

「え?」

重岡「笑った顔!!かわええ!!」

嬉しそうにそう言った彼。

いきなりのことに驚きつつ、
ちゃっかり照れてもいる。

「や、かわいくないです!」

急いで否定するも、
彼の耳には届いていないようで
満足そうに俯いて笑うだけだった。


重岡「あ、いきなりやけどさ!」

パッと顔を上げた彼。

話題がコロコロ変わるなぁ、
なんて考える暇もなく、
彼の口から次の言葉が出てきた。

重岡「バイオリン!!やめたん!?!?」

急に何かと思えば、
バイオリンの話か…。

って、ちょっと待って。

この学校に
私が昔、
バイオリンしてたこと知ってる人
居ないはず…。

なんでこの人は知ってるの??


じっ、と彼の目を見つめると、
彼は一瞬、
やってしまった、
みたいな顔になって、

そして、
目を泳がせながら

重岡「あれ?ひ、人違い??やったかな?」

そう言った。

泳いでいた目は
時計で止まった。

そして、目を少し開き、

重岡「あ、ごめん!もう帰らな!!ほんまごめん!!また明日な!!」

床に置いていたカバンを掴み、
立ち上がった。

急いで教室を出ていった。


シン、と静まり返る教室。

窓の外で
野球部が片付けを始めていた。

帰らなきゃな。

フックにかけてある
私のカバンをもち、
教室をあとにした。

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