なんで急にクビ……?
それに、家賃はそのままってどういうこと?
ちゃんと理由を聞かせてくれなきゃ……納得してやらないんだから!
こんな終わりなんて、絶対やだ……!
───気付いたら走り出してた。
購買でパンを買うとか、午後の授業とか、みんなが心配するかもとか。
そんなの、考える余裕もないくらい頭の中は【涼真】で埋めつくされていた。
〜マンション〜
勢いよくエスカレーターを降りてやっとのことで涼真の部屋の前に着いた。
学校からの道を、休むことなく走ったせいで額にはうっすらと汗が滲む。
しかし、肝心な涼真は何度インターホンを鳴らしても出てこない。
……もう、あったまきた。
部屋のドアをバンバン叩きながら、近所迷惑極まりないほど大きな声でアイドルの名前を叫んだ。
───ガチャッ
そんな私の非常識な行動で、諦めたように部屋のドアが開いて……
勢いよく涼真によって部屋に引き入れられた。
その力強さに、思わずバランスを崩した私は
───ドンッ
涼真を下敷きにして、玄関にそのまま倒れ込んでしまった。
あまりの近さに顔から火がでそう……。
慌てて離れようとして、ハッとする。
そうだ……!
私、涼真に聞きたいことがあって来たんだった。
これでも料理にも家事にも裁縫だって自信があったのに。
……どこがダメだったの?
もしかして、私が涼真を好きだってことバレたから?もうそばに置けないってこと?
涼真を押し倒したまま、半泣きの私。
うるうるして、ピントが合わない視界。
ピントが合わない視界。
涼真がどんな顔をしてるのか見たくて必死に手で涙を拭う。
……やっとハッキリ見えた涼真は思ったよりずっと困った顔をしていた。
私以上はいないなんて、言いながらどうしてクビにしようとするのよ。
……もう少し、そばにいさせて。
もしかして、涼真は私が翔太と付き合ったと思ってるの?
確かに返事をするとは言ったけどOKするなんて、一言も言ってないのに。
勝手に勘違いして、私をクビにするなんて……。
もう、どうにでもなれ。
このまま終わりになるくらいなら、最後に自分の本当の気持ちを……。
完全に告白としては可愛げがない。
逆ギレ……。
だけど、言えてスッキリした。
私の背中に腕を回した涼真がグイッと私を抱き寄せるから、途端に2人の距離がゼロになった。
肺いっぱいに吸い込んだ涼真の匂い。
温かい腕の中。
ドキドキと高鳴る2人の心臓の音。
……何が起きてるの?
涼真も、私にドキドキしてくれてる?
ねぇ、それって……。
少しだけ期待していた私は、涼真の言葉にわかりやすく落胆した。
そんな私を見て、涼真が笑う。
私の好きな人は、今をときめくトップアイドル。
歌って踊れる、爽やか王子様の素顔は
ちょっと俺様で、強引で、意地悪で
だけど、とびっきり甘い。
───これから、ふたりのドキドキいっぱいなトップシークレットの恋が始まる。
……まずは、パパを説得するところから始める必要がありそうだけど。
【END】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。