第8話

揺れる乙女心と読めない男心
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2019/07/20 04:09
紗和
紗和
翔太……今、なんて言った?
翔太とはずーっと、友達で。
これからもそれは変わらないと思ってた。

当たり前みたいにそばにいて、これからも私に呆れながらも一緒にバカやって笑い合って……。

そうやって、過ごして行けると思ってた。

なのに。
翔太
翔太
言わなきゃ永遠に
気付いてくれねぇんだろうから言う
翔太
翔太
俺、紗和のこと好きだ
翔太
翔太
ズルいって言われてもいいから、
友達のフリしてそばにいた
翔太
翔太
でも、もうそれだけじゃ嫌だ
……俺と付き合って?
紗和
紗和
翔太……!あの、私っ!
翔太
翔太
あ、返事は今すぐじゃなくていいから!
真剣に、考えて欲しい。
……じゃあ先帰るわ!また明日な
紗和
紗和
ちょ、待って!まだ話が……
……言っちゃった。

どうしよう、心臓がまだドキドキしてる。

まさか、翔太が私のことを好きなんて夢にも思わなかった。

いつもふざけて、一緒にバカやって……。
そんな関係がこれからもずーっと続いていくんだと思ってた。
〜涼真の部屋〜
紗和
紗和
どうしよう……
紗和
紗和
なんて言ったら
翔太を傷つけずに済むんだろう
学校からの帰り道も、頭の中は翔太のことでいっぱいだった。

合鍵を使って、涼真の部屋に入り、買ってきた食材を冷蔵庫に入れたあと

夜ご飯のハンバーグを作りながらも、やっぱり翔太のことを考えてる。

いつもなら、学校が終わってからずっと頭の中は涼真のことばかりなのに。
紗和
紗和
私が好きな人と、
私のことを好きな人……
……私の中で、いつの間にかこんなにも大きく膨らんでしまった涼真への気持ち。

もう、誤魔化せないところまで来てる。

不意に見せる不器用な優しさだったり。
普段口が悪い分、たまに素直な気持ちを聞くと嬉しさが倍になったり。

テレビに出ている涼真を見て、本当の涼真はもっとあーなのに、こーなのにって思う時間も。

電話の向こうのいつもより少し低くて甘い声も。

疲れきってソファに寝落ちする横顔も。
紗和
紗和
好き
翔太に告白されて改めて自分の気持ちを再確認した。

声に出してしまったら……アイドルを好きになってしまったら、そんなの自分が辛いだけだって思ってた。

だけど、このまま気持ちにフタをして涼真のそばに居るのは、きっともっとずっと


───苦しい。


って、いつの間にか翔太のことじゃなくて、涼真のことを考えている自分に苦笑する。
紗和
紗和
……いたっ!
涼真
涼真
バカ、何やってんだよ!
ボーッとしていたせいで玉ねぎと一緒に手まで切ってしまった私に、慌てて駆け寄ってくる涼真の姿……。

思わず、息をするのも忘れて駆け寄る涼真を見つめる。
紗和
紗和
な、なんで?いつ帰ってきたの?
ど、どこから入って……
涼真
涼真
は?たった今
普通に玄関からに決まってんだろ
紗和
紗和
そ、そっか……
おかえりなさい!
涼真
涼真
ん。
それより、大丈夫かよ
不意に、後ろから抱きすくめられたかと思えば
私の手を取り、傷口を確認する涼真。

深い意味はないって分かってるのに

私の心臓は今にも張り裂けそうなくらいドキドキして、ギューっと軋んで……

泣いてしまいそうになる。
涼真
涼真
あーあ、結構傷口深いな
涼真
涼真
ただでも鈍くせぇんだから
あんまボーッとしてんなよ
涼真
涼真
学校で何かあったのか?
私の小さい変化にちゃんと気付いてくれる。

……涼真のそういうところが、本当に好き。
紗和
紗和
……実は、今日告白されたんだ
紗和
紗和
そいつとは中学からの腐れ縁なんだけど
……真剣に考えて欲しいって言われて
涼真
涼真
……へぇ。良かったじゃん
それでボーッしてたってわけだ
涼真
涼真
いいんじゃねぇの?
今、そいつのこと逃したら
彼氏できないまま高校生活終わるぞ
紗和
紗和
……っ、
翔太に告白されたことを涼真に話したのは私なりの、恋の駆け引きだったんだと思う。

心のどこかで涼真に”断れ”って言われるのを待っていた。

ほんの少し、もしかしたら涼真も私のこと……そんな、淡い期待を抱いていた。
紗和
紗和
そ、そうだよね……!
紗和
紗和
ほらほらどいて!
料理の邪魔、あっち行ってて
涼真
涼真
ぉわ……ったく
人がせっかく心配してやったのに
涼真の思わせぶりな優しさが本物だったら良かったのに。

まるで他人事のような涼真に涙も引けてしまった。

やっぱり、アイドルに恋をするなんて身の程知らずだったんだ。

こんなに近くに居るのに、きっと、この手が涼真に届く日は来ない。

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