第9話

お世話係解任!?
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2019/07/27 04:09
一人、自分の部屋で床に転がりながらギュッと両手で膝を抱きしめる。

涼真の中に、私なんか一欠片も存在しない。
その現実が酷く悲しい気持ちを運ぶ。
涼真の気持ちを試すようなことをしておいて、挙句、涼真の言葉に傷ついてるようじゃ


自業自得にも程がある。
だけど涼真の言葉に一喜一憂してしまうほど私は涼真が好きなんだよね。

こんな気持ちのまま、翔太と付き合うなんて……そんなの、できるわけない。
紗和
紗和
……翔太は、いつもそばにいてくれたな
紗和
紗和
前向きで、私が落ち込んでると
笑わせて元気づけてくれて
紗和
紗和
翔太がいてくれて良かったって
いつも思う
それは、きっとこれからも変わらない。

優しい翔太だから、私がどんな答えを出しても笑ってくれる。

だけど、それに甘えて自分勝手な気持ちで向き合っちゃダメだ。
明日、翔太の目を見て、自分の気持ちを全部言葉にして伝えよう。
〜翌日〜
紗和
紗和
今日がオフならオフだって
昨日のうちに連絡してよね?
涼真
涼真
伝えたと思ってた
紗和
紗和
もう……!
朝は色々と忙しいのにぃ
昨日、何も言ってなかったのに涼真から朝になって急に”朝飯作って”と連絡があった。

私としては朝から会えてラッキーなようなこれ以上好きになっちゃいけないなら、どこか複雑なような……そんな朝。
涼真
涼真
ところで、お前さ
紗和
紗和
ん?なに?
涼真
涼真
……いつ返事すんの?
涼真
涼真
ほら、昨日の告白
紗和
紗和
今日、返事しようと思ってるよ
紗和
紗和
長く待たせるのは
なんか悪い気がするから
涼真
涼真
あっそ
紗和
紗和
なによ、そっちから聞いてきたくせに
紗和
紗和
……とりあえず、私に先行くね
涼真も遅刻しないように!
早口に告げて、玄関へと向かう。

本当は追いかけてきて欲しい……なんて思ってる自分、往生際が悪いな。
〜昼休み〜
ざわざわと賑わう購買を抜けて翔太と非常階段までやってきた私。
翔太
翔太
なんつー顔してんだよ
紗和
紗和
あ、あのね。翔太……!
紗和
紗和
私、翔太のことはすごく大事だし
これからも一緒に色んな思い出
作りたいって思ってるよ
翔太
翔太
……うん
紗和
紗和
でも、それは”友達”として
紗和
紗和
私、翔太とは付き合えない……
他に好きな人がいる、ごめん
翔太が私に真っ直ぐ向き合ってくれたその気持ちに、私も真っ直ぐ向き合いたい。

だから、翔太の悲しそうな顔から私は目を逸らしちゃ、ダメだよね。
翔太
翔太
あ〜あ、……分かってた。
紗和にとって俺が”友達”でしかないこと
翔太
翔太
もし紗和に好きなやつがいなかったら
ワンチャン行けると思ったのにな〜
……そっか、好きなやついるんだ
紗和
紗和
ワ、ワンチャンって……
翔太
翔太
フッ、冗談だよ。
俺だって、紗和とはこれからも
色んな思い出作りたいって思ってるし
翔太
翔太
……これからも今まで通りよろしく
紗和
紗和
……翔太
紗和
紗和
ありがとう……。
こちらこそ、よろしくね!
わざとらしく明るく振る舞う翔太はどこまでも、イイヤツだ。

私の気持ちが少しでも軽くなるようにって、思ってくれてるんだよね。
翔太
翔太
さーてと、戻って飯にすっぞ
腹減った〜
紗和
紗和
うん……!
あ、私購買寄ってく!
今日お弁当忘れてきたんだった
翔太
翔太
はぁ?
もう売り切れてんじゃねーの
翔太
翔太
ほんと鈍くせぇな
紗和
紗和
っ、!
”鈍くせぇんだから”

私を後ろから抱きすくめた涼真が、ふとフラッシュバックした。

私も、いつか涼真に真っ直ぐに気持ちを伝えられるかな?

……でも、涼真はアイドル。
伝えたらきっと、お世話係ですらいられない。

ましてや、涼真にとって私の気持ちなんか迷惑なだけだろう。

言わない、言えないや。
このまま秘密にしよう、この気持ち。
紗和
紗和
う、うるさい!
先にみんなのところ戻ってて
翔太
翔太
りょ〜かい
教室へと向かう翔太の後ろ姿を見送りながら、もう一度”ありがとう”と心で呟く。

───ブブッ

ふと、ポケットの中でスマホが震えて、何気なくポケットに手を伸ばして確認すれば
紗和
紗和
……涼真からLIMEだ
【お世話係は今日でクビだから】
【家賃は今まで通り3万でいい】
【今までサンキュ】
紗和
紗和
な、なんで……?
そこに表示されていた涼真からのメッセージに息を呑んだ。

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