一人、自分の部屋で床に転がりながらギュッと両手で膝を抱きしめる。
涼真の中に、私なんか一欠片も存在しない。
その現実が酷く悲しい気持ちを運ぶ。
涼真の気持ちを試すようなことをしておいて、挙句、涼真の言葉に傷ついてるようじゃ
自業自得にも程がある。
だけど涼真の言葉に一喜一憂してしまうほど私は涼真が好きなんだよね。
こんな気持ちのまま、翔太と付き合うなんて……そんなの、できるわけない。
それは、きっとこれからも変わらない。
優しい翔太だから、私がどんな答えを出しても笑ってくれる。
だけど、それに甘えて自分勝手な気持ちで向き合っちゃダメだ。
明日、翔太の目を見て、自分の気持ちを全部言葉にして伝えよう。
〜翌日〜
昨日、何も言ってなかったのに涼真から朝になって急に”朝飯作って”と連絡があった。
私としては朝から会えてラッキーなようなこれ以上好きになっちゃいけないなら、どこか複雑なような……そんな朝。
早口に告げて、玄関へと向かう。
本当は追いかけてきて欲しい……なんて思ってる自分、往生際が悪いな。
〜昼休み〜
ざわざわと賑わう購買を抜けて翔太と非常階段までやってきた私。
翔太が私に真っ直ぐ向き合ってくれたその気持ちに、私も真っ直ぐ向き合いたい。
だから、翔太の悲しそうな顔から私は目を逸らしちゃ、ダメだよね。
わざとらしく明るく振る舞う翔太はどこまでも、イイヤツだ。
私の気持ちが少しでも軽くなるようにって、思ってくれてるんだよね。
”鈍くせぇんだから”
私を後ろから抱きすくめた涼真が、ふとフラッシュバックした。
私も、いつか涼真に真っ直ぐに気持ちを伝えられるかな?
……でも、涼真はアイドル。
伝えたらきっと、お世話係ですらいられない。
ましてや、涼真にとって私の気持ちなんか迷惑なだけだろう。
言わない、言えないや。
このまま秘密にしよう、この気持ち。
教室へと向かう翔太の後ろ姿を見送りながら、もう一度”ありがとう”と心で呟く。
───ブブッ
ふと、ポケットの中でスマホが震えて、何気なくポケットに手を伸ばして確認すれば
【お世話係は今日でクビだから】
【家賃は今まで通り3万でいい】
【今までサンキュ】
そこに表示されていた涼真からのメッセージに息を呑んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。