第5話

え、私がモデル……!?
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2019/06/29 04:09
涼真
涼真
もしもし?今どこにいる?
紗和
紗和
ど、どこって……家だけど
こんな朝早くに何?
涼真
涼真
ならちょうど良かった。
今すぐ駅前まで来い!
紗和
紗和
え……?駅前?
まだ、起きたばっかりで、って!
紗和
紗和
……涼真のやつ、切りやがった
今日は日曜日。
休日はゆっくり眠る派の私を、まだ7時半すぎだというのに電話で叩き起した涼真を恨みつつ、
何とか布団という名のオアシスから抜け出した私は出かける準備をマッハで整え家を出た。

もちろん、……正直、なんで私が?って気持ち120パーセント。

だけど、涼真のお世話係になった以上、これも仕事と割り切るしかない。
だって家賃がかかってるんだもん!!!
涼真
涼真
あ、紗和!こっちこっち
紗和
紗和
こっちこっち、じゃないよ!
スタッフ
君が涼真のいとこ?
紗和
紗和
えっ……?
スタッフ
うん、涼真のいとこなだけあってすごい可愛いね!
スタッフ
モデルが急遽休みになっちゃってね〜
急すぎて他のモデルも捕まらないし……
代わりに引き受けてくれて助かったよ!
頭の中はこんがらがってて、何が何だか理解する気力もない。

代わりを引き受けたって言った?誰が!?
私はただ涼真に呼ばれて来ただけで、モデルなんて無理に決まってるし!

それに、誰が涼真のいとこなのよ!?嘘ばっかり……!

……でもそれ以上に私の頭を混乱させてるのは、涼真の隣で優しく微笑む、モデルの松下楓マツシタカエデ(♂)!!!

私……実は、ずっと前から楓くんの大ファンなの!
涼真
涼真
ま、そういうわけだから
人助けだと思って撮影に参加しろ
紗和
紗和
……む、無理だよ!!
紗和
紗和
てか、楓くんがいるなら早く教えてよ!
もっとちゃんとメイクしてきたのに……
涼真
涼真
は?お前もしかして……楓のファンなわけ?
紗和
紗和
そりゃそうだよ!
あんなにかっこいい人見たことある?
まさかこんなに近くで見れる日が来るなんて……
涼真
涼真
へぇ……。
ま、とにかく今日一日
お前はモデルだから上手くやれよ?
紗和
紗和
だ、だから!それは無理だって!!
私にだけ聞こえる声で放たれた言葉。
不意に意地悪く口角を上げる涼真に、ムッとする。
涼真のやつ、絶対私の反応見て面白がってる……!

本当、嫌ってくらい性格悪い!!
〜撮影中〜
スタッフ
いいね〜!紗和ちゃんもう少し寄って?
ほら、もっと笑って〜
紗和
紗和
……っ、
涼真
涼真
……どうした?
紗和
紗和
……ううん、なんでもない
涼真
涼真
……すみません、休憩挟んでいいですか?あんま紗和に無理させたくないんで
紗和
紗和
……涼真
スタッフ
そうだな、とりあえずお昼にしようか!
また1時間後に集合ってことで
涼真
涼真
水取ってくる。
椅子に座って待ってろ
紗和
紗和
ん、ありがとう
9時から始まった撮影は思った以上に大変で、13時を過ぎた今やっとお昼休憩となった。
一般人の私には初めての連発で、いい経験にはなったけど
どうしようもない疲れが身体を支配している。

いい加減、笑顔が引きつってきてた頃だったから
……今回ばかりは涼真に助けられたな。

って、元はと言えば涼真のせいでこんなことしてるんだけど。
楓
お疲れさま
紗和
紗和
あ、お疲れさまです!
楓
涼真くんって、いつも爽やかだけど
紗和ちゃんの前だと少し雰囲気違うね!
紗和
紗和
……そ、そうですか?
楓
涼真くんと撮影一緒するの3回目だけど
あんなに人のために動いてんの初めて見る
楓
大事なんだね、紗和ちゃんのこと〜
大好きな楓くんが目の前にいて、私に話しかけてくれてるって言うのに、それ以上に今、私の頭をいっぱいにしてるのは……涼真で。

今日の撮影を通して、さっきみたいに涼真の”目に見える優しさ”や”分かりにくい優しさ”に何度も触れた。

そんな優しさに触れる度、私の胸はトクン、トクンと音を立てて波打つ。
涼真
涼真
ん、水
……疲れてねぇか?
紗和
紗和
あ、ありがとう
……今日の涼真、やけに優しいね
明日、雪降ったりして
涼真
涼真
ん?俺はいつだって優しいよ?
女の子に無理はさせたくないからね
紗和
紗和
出た、王子様キャラ
なんか……もはや、誰
涼真
涼真
……うっせ、さっさと飲んで
早いとこ撮影終わらすぞ
ねぇ、その優しさは、爽やか王子様アイドルの神崎涼真として?

それとも───。

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