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第1話

ENDLESS KISS
1,879
2021/08/25 09:53
康夫の部屋にいる、幸子と康夫。
マリアは眠っている。
上中里康夫
上中里康夫
はぁ
佐藤幸子
佐藤幸子
なに?
上中里康夫
上中里康夫
明日やだなー
佐藤幸子
佐藤幸子
あ~卒業式? 康夫ってそんなに学校好きだった?
上中里康夫
上中里康夫
……
佐藤幸子
佐藤幸子
どしたの?
上中里康夫
上中里康夫
こんな風に集まったりしなくなんのかなって
佐藤幸子
佐藤幸子
あ~。でもあんたたち付き合ってんだし、会うでしょ
上中里康夫
上中里康夫
……俺たちのことじゃなくて
佐藤幸子
佐藤幸子
……じゃなくて?
上中里康夫
上中里康夫
お前とは?
街の放送『夕焼け小焼け』が流れる。
佐藤幸子
佐藤幸子
……別に会えるでしょ。連絡取れるんだし
佐藤幸子
佐藤幸子
お茶取ってくるわ。康夫は? ……康夫?
上中里康夫
上中里康夫
あんときもそうやってお茶取りに行ったよな
佐藤幸子
佐藤幸子
……何の話
上中里康夫
上中里康夫
中学ん時さ、この部屋で……
佐藤幸子
佐藤幸子
やめて。やめよう。マリアがいる時に話すことじゃない
上中里康夫
上中里康夫
俺、初恋だったんだぜ
佐藤幸子
佐藤幸子
やめてって。どした、急に。状況考えなよ。恋人の前だよ? 起きてたらっ
て考えないわけ?
上中里康夫
上中里康夫
怒んなよ。あんときと同じだったからつい思い出して……
佐藤幸子
佐藤幸子
いまはやめてほしかった。親友の彼氏とキスした思い出なんて、最悪なんだけど
ドアを出ようとする幸子。
上中里康夫
上中里康夫
でも、もう会えないかもしれないんだよな
佐藤幸子
佐藤幸子
……会える、ってことはないかもねこんな話が出た以上
上中里康夫
上中里康夫
じゃあ聞かせてくれよ、お前の気持ち。あんとき俺のことどう思ってた? いまはどう思ってる?
佐藤幸子
佐藤幸子
どうって……!
幸子を壁に押し付ける。
佐藤幸子
佐藤幸子
ちょっと
上中里康夫
上中里康夫
教えろよ、頼む
いまにもキスしそうな距離の二人。
佐藤幸子
佐藤幸子
やめて
上中里康夫
上中里康夫
やめない。俺はまだお前が好きだ
佐藤幸子
佐藤幸子
……
上中里康夫
上中里康夫
お前は? あんときのキス、遊びだった?
佐藤幸子
佐藤幸子
――違う
幸子から康夫にキスをする。
ハッと硬直する二人。マリアが起きていて、二人のキスを見ていた。
佐藤幸子
佐藤幸子
起きてたの?
鈴木マリア
鈴木マリア
うん。ずっと起きてた
幸子は急いでカバンを取り、部屋を出てドアを閉めた。
上中里康夫
上中里康夫
幸子!
ドア前で泣きそうな幸子
佐藤幸子
佐藤幸子
全部終わりだ……! 友情も、恋も……。なんでキスなんかしちゃったわけ、バカ…私のバカ…! ごめん、マリア…ほんとごめん……!
出口へ早足で向かい、ドアを開けた。
ドアを開くと、康夫の部屋に出た。
マリアはベッドで眠っている。そのそばに康夫。
佐藤幸子
佐藤幸子
は? え? あれ?
上中里康夫
上中里康夫
どした?
佐藤幸子
佐藤幸子
いや、どしたって…
佐藤幸子
佐藤幸子
(私、部屋出たよね? なんで戻ってんの? ってかなに? 康夫のやつ、なんでなんにもなかったみたいな顔してんの?)
上中里康夫
上中里康夫
明日やだなー
佐藤幸子
佐藤幸子
上中里康夫
上中里康夫
卒業式だよ。こんな風に集まったりしなくなんのかなって
佐藤幸子
佐藤幸子
(いや待って待って。さっきとおんなじこと言ってない? どういうこと?)
街の放送『夕焼け小焼け』が流れる。
佐藤幸子
佐藤幸子
(これ、さっき鳴ったはずだよね? なんでまた?)
上中里康夫
上中里康夫
どうしたんだよ。そんなびっくりした顔して。なんかあったのか?
佐藤幸子
佐藤幸子
あったっていうか、え? いや……
康夫が心配そうに近づいてくる。
上中里康夫
上中里康夫
大丈夫か?
佐藤幸子
佐藤幸子
わかんない。ちょっとパニクってる
上中里康夫
上中里康夫
ってか、そこに立ってると思い出すな。あんときのこと
佐藤幸子
佐藤幸子
……何の話
上中里康夫
上中里康夫
中学ん時さ、この部屋で……
佐藤幸子
佐藤幸子
やめて。やめよう
上中里康夫
上中里康夫
俺、初恋だったんだぜ
佐藤幸子
佐藤幸子
やめてって
上中里康夫
上中里康夫
聞かせてくれよ、お前の気持ち。あんとき俺のことどう思ってた? いまはどう思ってる?
佐藤幸子
佐藤幸子
どうって……! それさっき
幸子を壁に押し付ける。
佐藤幸子
佐藤幸子
ちょっと
上中里康夫
上中里康夫
教えろよ、頼む
いまにもキスしそうな距離の二人。
佐藤幸子
佐藤幸子
(どういうこと? この展開さっきと同じじゃん……えっ、待って。ってことはマリア起きてるんじゃ…?)
上中里康夫
上中里康夫
――俺はまだお前が好きだ。お前は? あんときのキス、遊びだった?
佐藤幸子
佐藤幸子
――違うけど…だめだよ、康夫、待って…あ…
康夫から幸子にキスをする。
康夫を押しのける幸子。
佐藤幸子
佐藤幸子
待ってってば
上中里康夫
上中里康夫
なんだよ
幸子がマリアの方を促す。
マリアが二人を見ている。
佐藤幸子
佐藤幸子
やっぱり、起きてたんだ
鈴木マリア
鈴木マリア
うん。ずっと起きてた
幸子、急いでカバンを取り、部屋を出てドアを閉める。
上中里康夫
上中里康夫
幸子!
出口へ向かう幸子。
佐藤幸子
佐藤幸子
どういうこと? なんか繰り返してる…? ってかなんでまたキスしちゃうわ
け……? なにがどうなってんの?
ドアを開くと、康夫の部屋に出た。
マリアはベッドで眠っている。そのそばに康夫。
佐藤幸子
佐藤幸子
って、また!?
上中里康夫
上中里康夫
どした? またってなにが?
佐藤幸子
佐藤幸子
いや……。ってか、康夫、あんたキスしたよね?
上中里康夫
上中里康夫
は? ああ、中学の時だろ、それ
佐藤幸子
佐藤幸子
(なに、この反応。とぼけてるわけじゃなさそうだけど…)
佐藤幸子
佐藤幸子
あのさ、ちょっと聞きたいことあるんだけど――
街の放送『夕焼け小焼け』が流れる。
佐藤幸子
佐藤幸子
上中里康夫
上中里康夫
どした。固まって。聞きたいことってなに?
佐藤幸子
佐藤幸子
これ、三回目だよね? さっきも鳴ったよね?
上中里康夫
上中里康夫
は? んなわけないじゃん。タイムリープでもしてんの?
佐藤幸子
佐藤幸子
……タイムリープ? 時間を繰り返してる…?
上中里康夫
上中里康夫
…いやいや、冗談じゃん。マジにすんなよ
幸子、ドアを開けて向こうを見る。
佐藤幸子
佐藤幸子
(いや、でもマジでタイムリープかもしれない)
康夫が心配そうに近づく。
上中里康夫
上中里康夫
大丈夫か?
佐藤幸子
佐藤幸子
(理由はわからないけど同じことを繰り返してる? だとするなら、この後康夫は
中学の時のことを言うはず)
上中里康夫
上中里康夫
ってか、そこに立ってると思い出すな。あんときのこと
佐藤幸子
佐藤幸子
(やっぱり言った。そんで初恋だったって話して私の気持ちを聞いてくる)
上中里康夫
上中里康夫
聞かせてくれよ、お前の気持ち。あんとき俺のことどう思ってた? いまはどう思ってる?
佐藤幸子
佐藤幸子
(ほらきた。ここでちゃんと言わなきゃ。あんたのことは過去のことだって言わないと)
幸子を壁に押し付ける。
佐藤幸子
佐藤幸子
(…言わないと)
上中里康夫
上中里康夫
教えろよ、頼む
いまにもキスしそうな距離の二人。
佐藤幸子
佐藤幸子
(どうなんだろう…。わかんなくなった。私にとって康夫って過去のことなんだっけ?)
上中里康夫
上中里康夫
――俺はまだお前が好きだ。お前は? あんときのキス、遊びだった?
佐藤幸子
佐藤幸子
――違うけど、これ以上マリアを裏切れない
上中里康夫
上中里康夫
いやなら突き飛ばせよ
佐藤幸子
佐藤幸子
やめて
唇を近づける康夫。
佐藤幸子
佐藤幸子
――やめてってば!
康夫を押しのける幸子。
鈴木マリア
鈴木マリア
キスしちゃえばよかったのに
マリアが起き上がって二人を見ている。
佐藤幸子
佐藤幸子
あんたが起きてるの、わかってたから
鈴木マリア
鈴木マリア
寝てたらしたんだ?
佐藤幸子
佐藤幸子
そんなこと言ってないでしょ! 私はあんたとの友情が大事だから…
鈴木マリア
鈴木マリア
友情?
あんたが康夫のこと好きなのはずっと知ってた。あたしが相談したとき、言ってくれたらよかったのに、黙ってたよね。
黙ってたなら諦めてよ。
諦められないなら裏切りじゃん。
なにが友情だよ
佐藤幸子
佐藤幸子
…!
幸子は急いでカバンを取り、部屋を出てドアを閉めた。
上中里康夫
上中里康夫
幸子!
出口へ向かう幸子。
ドアを開ける。
ドアを開くと、康夫の部屋に出た。
マリアはベッドで眠っている。そのそばに康夫。
佐藤幸子
佐藤幸子
……
佐藤幸子
佐藤幸子
(このとき、私は確信した。冗談交じりに言った康夫の言葉。タイムリープ。漫画とか映画で見たことがある。同じ時間を繰り返してしまう不思議な現象。私は、あれに巻き込まれてしまったんだって)
ドアを開けて入ってくる、を繰り返す幸子。
佐藤幸子
佐藤幸子
(それから私は、何度も何度もこの部屋を出たり入ったりし続けた。
タイムリープを止めるために、いろんなことを試した。
でも終わらなかった。
私はいつも罪悪感を抱えてドアをくぐり、タイムリープを繰り返した。
どうしたらいいのか途方にくれたりもした。
そうして四十八回目のタイムリープが終わったとき、ようやく気付いた。
このループを終わらせる方法を)
康夫の部屋にいる、幸子と康夫。
マリアはベッドで眠っている。
上中里康夫
上中里康夫
はぁ
佐藤幸子
佐藤幸子
なに?
上中里康夫
上中里康夫
明日やだなー
佐藤幸子
佐藤幸子
あ~卒業式? 康夫ってそんなに学校好きだった?
上中里康夫
上中里康夫
……
佐藤幸子
佐藤幸子
どしたの?
上中里康夫
上中里康夫
こんな風に集まったりしなくなんのかなって
佐藤幸子
佐藤幸子
かもね。こんな状況が続くなら無理だろうね
上中里康夫
上中里康夫
そこは、大丈夫って言えよ、うそでも
佐藤幸子
佐藤幸子
無理だよ。ね、マリア。無理だよね
上中里康夫
上中里康夫
いや、寝てるし?
佐藤幸子
佐藤幸子
寝てないよ。わかるから、私
街の放送『夕焼け小焼け』が流れる。
マリア、ベッドで動かない。
佐藤幸子
佐藤幸子
…まあいいよ。そのままにしてれば
上中里康夫
上中里康夫
どうしたんだよ、お前。なんか怒ってる?
佐藤幸子
佐藤幸子
そうだね、ちょっとイラついてる。あんたは中学ん時のこと思いださせてキスしようとするしさ
上中里康夫
上中里康夫
…は?
佐藤幸子
佐藤幸子
なんでいま? なんでこのタイミング? 私のこと好きなら、こんな…卒業間近じゃなくて、もっと早く言ってくれればよかったじゃん
上中里康夫
上中里康夫
は? 俺だってお前と付き合いたかったけど、マリアが、お前も応援してるって言うから
佐藤幸子
佐藤幸子
応援? 私が? …信じたんだ、あんたは
上中里康夫
上中里康夫
違うの?
佐藤幸子
佐藤幸子
じゃあ、はっきり言うよ。私、康夫が好き。ずっと好きだったの。子供の時から。
だから、応援なんてするわけないの
上中里康夫
上中里康夫
え……
立ち上がる幸子。
佐藤幸子
佐藤幸子
マリア。そうだよね。やっとわかったよ。
私たちの友情は、とっくに壊れてたんだね。
あんたはそれをはっきりさせるために、ずっと起きてた
動かないマリア。
佐藤幸子
佐藤幸子
…それがあんたの答えね。
わかった。じゃあ勝手に話すね。
あんたが言う通り、私はずっとあんたを裏切ってたのかもしれない。
あんたのためだと思って気持ちを隠し続けてたけど、全然隠せてなかったんだね。ごめん。
それは私が悪かった。
でもあんたも悪いよ。
嘘ついて康夫を騙した。
私の気持ちを知ってたくせに、無視した。あんたも私を裏切ってた。お互い様ってことだよね。おあいこ。それでおしまい。ジ・エンド。ハッピーエンドじゃないけど、バッドエンドでもない
カバンを取ってドアへ向かう幸子。
佐藤幸子
佐藤幸子
さよなら、二人とも元気でね
部屋を出てドアを閉めた。
出口へ向かう幸子。
佐藤幸子
佐藤幸子
(私の心は晴れやかだった。
これまでの四十八回、ずっと抱えていた罪悪感が、綺麗になくなっていた。
きっと、この先のドアを抜けたらもう時間は戻らない。
二人との関係も、友情も、巻き戻ることはないのだと思う。
このタイムリープは私が私を知るために、神様がくれたちょっとした魔法だったのかもしれない。
ありがとう神様。私はもう後悔しない。
さようならマリア。
さようなら康夫。
さようなら、いままでの私)
ドアを開ける。
強い光が幸子の顔を照らした。

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