康夫の部屋にいる、幸子と康夫。
マリアは眠っている。
はぁ
なに?
明日やだなー
あ~卒業式? 康夫ってそんなに学校好きだった?
……
どしたの?
こんな風に集まったりしなくなんのかなって
あ~。でもあんたたち付き合ってんだし、会うでしょ
……俺たちのことじゃなくて
……じゃなくて?
お前とは?
街の放送『夕焼け小焼け』が流れる。
……別に会えるでしょ。連絡取れるんだし
お茶取ってくるわ。康夫は? ……康夫?
あんときもそうやってお茶取りに行ったよな
……何の話
中学ん時さ、この部屋で……
やめて。やめよう。マリアがいる時に話すことじゃない
俺、初恋だったんだぜ
やめてって。どした、急に。状況考えなよ。恋人の前だよ? 起きてたらっ
て考えないわけ?
怒んなよ。あんときと同じだったからつい思い出して……
いまはやめてほしかった。親友の彼氏とキスした思い出なんて、最悪なんだけど
ドアを出ようとする幸子。
でも、もう会えないかもしれないんだよな
……会える、ってことはないかもねこんな話が出た以上
じゃあ聞かせてくれよ、お前の気持ち。あんとき俺のことどう思ってた? いまはどう思ってる?
どうって……!
幸子を壁に押し付ける。
ちょっと
教えろよ、頼む
いまにもキスしそうな距離の二人。
やめて
やめない。俺はまだお前が好きだ
……
お前は? あんときのキス、遊びだった?
――違う
幸子から康夫にキスをする。
ハッと硬直する二人。マリアが起きていて、二人のキスを見ていた。
起きてたの?
うん。ずっと起きてた
幸子は急いでカバンを取り、部屋を出てドアを閉めた。
幸子!
ドア前で泣きそうな幸子
全部終わりだ……! 友情も、恋も……。なんでキスなんかしちゃったわけ、バカ…私のバカ…! ごめん、マリア…ほんとごめん……!
出口へ早足で向かい、ドアを開けた。
ドアを開くと、康夫の部屋に出た。
マリアはベッドで眠っている。そのそばに康夫。
は? え? あれ?
どした?
いや、どしたって…
(私、部屋出たよね? なんで戻ってんの? ってかなに? 康夫のやつ、なんでなんにもなかったみたいな顔してんの?)
明日やだなー
え
卒業式だよ。こんな風に集まったりしなくなんのかなって
(いや待って待って。さっきとおんなじこと言ってない? どういうこと?)
街の放送『夕焼け小焼け』が流れる。
(これ、さっき鳴ったはずだよね? なんでまた?)
どうしたんだよ。そんなびっくりした顔して。なんかあったのか?
あったっていうか、え? いや……
康夫が心配そうに近づいてくる。
大丈夫か?
わかんない。ちょっとパニクってる
ってか、そこに立ってると思い出すな。あんときのこと
……何の話
中学ん時さ、この部屋で……
やめて。やめよう
俺、初恋だったんだぜ
やめてって
聞かせてくれよ、お前の気持ち。あんとき俺のことどう思ってた? いまはどう思ってる?
どうって……! それさっき
幸子を壁に押し付ける。
ちょっと
教えろよ、頼む
いまにもキスしそうな距離の二人。
(どういうこと? この展開さっきと同じじゃん……えっ、待って。ってことはマリア起きてるんじゃ…?)
――俺はまだお前が好きだ。お前は? あんときのキス、遊びだった?
――違うけど…だめだよ、康夫、待って…あ…
康夫から幸子にキスをする。
康夫を押しのける幸子。
待ってってば
なんだよ
幸子がマリアの方を促す。
マリアが二人を見ている。
やっぱり、起きてたんだ
うん。ずっと起きてた
幸子、急いでカバンを取り、部屋を出てドアを閉める。
幸子!
出口へ向かう幸子。
どういうこと? なんか繰り返してる…? ってかなんでまたキスしちゃうわ
け……? なにがどうなってんの?
ドアを開くと、康夫の部屋に出た。
マリアはベッドで眠っている。そのそばに康夫。
って、また!?
どした? またってなにが?
いや……。ってか、康夫、あんたキスしたよね?
は? ああ、中学の時だろ、それ
(なに、この反応。とぼけてるわけじゃなさそうだけど…)
あのさ、ちょっと聞きたいことあるんだけど――
街の放送『夕焼け小焼け』が流れる。
…
どした。固まって。聞きたいことってなに?
これ、三回目だよね? さっきも鳴ったよね?
は? んなわけないじゃん。タイムリープでもしてんの?
……タイムリープ? 時間を繰り返してる…?
…いやいや、冗談じゃん。マジにすんなよ
幸子、ドアを開けて向こうを見る。
(いや、でもマジでタイムリープかもしれない)
康夫が心配そうに近づく。
大丈夫か?
(理由はわからないけど同じことを繰り返してる? だとするなら、この後康夫は
中学の時のことを言うはず)
ってか、そこに立ってると思い出すな。あんときのこと
(やっぱり言った。そんで初恋だったって話して私の気持ちを聞いてくる)
聞かせてくれよ、お前の気持ち。あんとき俺のことどう思ってた? いまはどう思ってる?
(ほらきた。ここでちゃんと言わなきゃ。あんたのことは過去のことだって言わないと)
幸子を壁に押し付ける。
(…言わないと)
教えろよ、頼む
いまにもキスしそうな距離の二人。
(どうなんだろう…。わかんなくなった。私にとって康夫って過去のことなんだっけ?)
――俺はまだお前が好きだ。お前は? あんときのキス、遊びだった?
――違うけど、これ以上マリアを裏切れない
いやなら突き飛ばせよ
やめて
唇を近づける康夫。
――やめてってば!
康夫を押しのける幸子。
キスしちゃえばよかったのに
マリアが起き上がって二人を見ている。
あんたが起きてるの、わかってたから
寝てたらしたんだ?
そんなこと言ってないでしょ! 私はあんたとの友情が大事だから…
友情?
あんたが康夫のこと好きなのはずっと知ってた。あたしが相談したとき、言ってくれたらよかったのに、黙ってたよね。
黙ってたなら諦めてよ。
諦められないなら裏切りじゃん。
なにが友情だよ
…!
幸子は急いでカバンを取り、部屋を出てドアを閉めた。
幸子!
出口へ向かう幸子。
ドアを開ける。
ドアを開くと、康夫の部屋に出た。
マリアはベッドで眠っている。そのそばに康夫。
……
(このとき、私は確信した。冗談交じりに言った康夫の言葉。タイムリープ。漫画とか映画で見たことがある。同じ時間を繰り返してしまう不思議な現象。私は、あれに巻き込まれてしまったんだって)
ドアを開けて入ってくる、を繰り返す幸子。
(それから私は、何度も何度もこの部屋を出たり入ったりし続けた。
タイムリープを止めるために、いろんなことを試した。
でも終わらなかった。
私はいつも罪悪感を抱えてドアをくぐり、タイムリープを繰り返した。
どうしたらいいのか途方にくれたりもした。
そうして四十八回目のタイムリープが終わったとき、ようやく気付いた。
このループを終わらせる方法を)
康夫の部屋にいる、幸子と康夫。
マリアはベッドで眠っている。
はぁ
なに?
明日やだなー
あ~卒業式? 康夫ってそんなに学校好きだった?
……
どしたの?
こんな風に集まったりしなくなんのかなって
かもね。こんな状況が続くなら無理だろうね
そこは、大丈夫って言えよ、うそでも
無理だよ。ね、マリア。無理だよね
いや、寝てるし?
寝てないよ。わかるから、私
街の放送『夕焼け小焼け』が流れる。
マリア、ベッドで動かない。
…まあいいよ。そのままにしてれば
どうしたんだよ、お前。なんか怒ってる?
そうだね、ちょっとイラついてる。あんたは中学ん時のこと思いださせてキスしようとするしさ
…は?
なんでいま? なんでこのタイミング? 私のこと好きなら、こんな…卒業間近じゃなくて、もっと早く言ってくれればよかったじゃん
は? 俺だってお前と付き合いたかったけど、マリアが、お前も応援してるって言うから
応援? 私が? …信じたんだ、あんたは
違うの?
じゃあ、はっきり言うよ。私、康夫が好き。ずっと好きだったの。子供の時から。
だから、応援なんてするわけないの
え……
立ち上がる幸子。
マリア。そうだよね。やっとわかったよ。
私たちの友情は、とっくに壊れてたんだね。
あんたはそれをはっきりさせるために、ずっと起きてた
動かないマリア。
…それがあんたの答えね。
わかった。じゃあ勝手に話すね。
あんたが言う通り、私はずっとあんたを裏切ってたのかもしれない。
あんたのためだと思って気持ちを隠し続けてたけど、全然隠せてなかったんだね。ごめん。
それは私が悪かった。
でもあんたも悪いよ。
嘘ついて康夫を騙した。
私の気持ちを知ってたくせに、無視した。あんたも私を裏切ってた。お互い様ってことだよね。おあいこ。それでおしまい。ジ・エンド。ハッピーエンドじゃないけど、バッドエンドでもない
カバンを取ってドアへ向かう幸子。
さよなら、二人とも元気でね
部屋を出てドアを閉めた。
出口へ向かう幸子。
(私の心は晴れやかだった。
これまでの四十八回、ずっと抱えていた罪悪感が、綺麗になくなっていた。
きっと、この先のドアを抜けたらもう時間は戻らない。
二人との関係も、友情も、巻き戻ることはないのだと思う。
このタイムリープは私が私を知るために、神様がくれたちょっとした魔法だったのかもしれない。
ありがとう神様。私はもう後悔しない。
さようならマリア。
さようなら康夫。
さようなら、いままでの私)
ドアを開ける。
強い光が幸子の顔を照らした。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!