『今日の決勝___勝ったのは白鳥沢だ。』
『っ……………また負けた』
昼言っていた烏養さんの言葉と、帰宅すると悔しそうに顔を歪める兄に掛けられた言葉が、頭をぐるぐると回る。
あなた「__白鳥沢…」
堅治とはまた違う、腐れ縁ではなく割と仲の良かった幼馴染の顔が浮かんだ。
『あなたっ!エースである俺が今日も!試合でいっぱいスパイク決めるから見てろよっ』
『俺___白鳥沢行く…!そんでまたっ、エースになる!!』
最後に会ったのは、中1の頃だっけ…
幼稚園が同じで、小学校は5年生の頃向こうが引っ越して行った。そして中1のときにスーパーでばったり会って、連絡先を交換した。 それから時々連絡を取りあっていたが、今は年に何度か。
コンコン、と不意に部屋にノック音が響いた。
母「あなた?久しぶりに外食にでも行かない?貴大も行くって言ってるし……」
なんでこんな時に__そう思った、けど。
落ち込んで、薄暗い部屋に引きこもる子に、気分転換でもさせようとしたのだろう。その母の優しさを、断ることはできない。
それに…………
『もう一度、あそこへ行く!』
澤村さんも、皆も、昨日のことを引きづっていない。もちろん悔しさは残っているはず。
でももう今はきっと、”春高”に行くことしか、”オレンジコート”で全国の強者達と戦うことしか、考えていない____
あなた「…行く!」
元気に振る舞えたか分からないけど、できるだけ元気に、明るく、そう声を発した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。