これは中2の頃のこと_____
その頃、付き合っている人がいた。
彼はサッカー部だった。
私は女子バレー部で、部活では何の関わりもなかった。
クラスが同じでよく席が近くになっていたアイツは、いつも私にからかってきた。
名前は七森晴樹、サッカー部のエースらしい。
晴樹「あなたー!」
あなた「晴樹、お疲れ〜っ」
空が赤く染まる頃、校門前で集合して二人で並んで帰る。
あなた「今日コーチがさ、私のこと名前間違えて花巻じゃなくて巻巻って呼んできたからびびったわw」
「バカじゃん」とか笑いながら話して、こういう日常が好きだった。
次の日の下校の時間_____
「あのっ私…七森くんのこと好きなんです!よかったら付きあっt「ごめん」
晴樹「付き合ってる人がいるんだ。」
裏庭。委員会の仕事で通りかかると、そこで晴樹が告られていた。
ちゃんと断ってくれたことにホッとしながら、壁にすがる。
と、向こうから声が聞こえた。
女子「ねえ、そこにいるんでしょ」
さっき晴樹に告っていた子だ。
いつの間にか晴樹は居なくなっていて、その子は私にずんずんと近づいてくる。
あなた「…え?」
女子「あんたが、彼女なんでしょ!」
晴樹の前で見せていた、清楚感のある小柄な可愛い女の子、というのはどこに行ったのか……
スコイ形相で胸ぐらをつかんできた。
女子「あんたなんかよりっ私の方が、絶対釣り合ってるから!!それに、晴樹くんはあんたのこと好きだなんて思ってないから!!」
そうだ…晴樹は、モテるんだった。
社交的で明るい性格、前向きで眩しい笑顔。優しく、気遣いのできるイケメン。
そうに決まってる。狙う女子も多い。
あなた「私、委員会あるので…っそろそろ放してもらえますか?」
女子「なら…今から晴樹くんと話さないで!一緒に帰ったりも触れたりもだめ!!」
力をぐっと込めて押さえつけられ、胸が苦しい。
あなた「〜っ…!! む…り………っ」
舌打ちが聞こえ、更に増した腕の力にそろそろ耐えられそうにない。
一人の女子なのに、男じゃないのに、この子の力は強い。
名前は知らないけど、確かボクシングの大会で準優勝したとか……
女子「それなら……」
上に振り上げられたその腕は、私の腹部めがけ、一直線。
_____________やっぱ私、一人じゃ何もできないんだな…
自衛さえもできない。
ズドンっ
鈍い音が響き、目の前に影ができた。
……痛くないってことは、きっと………
岩泉「ぐ……っ」
ああ……また誰かを…
あなた「一くん…?!大丈夫?なんで…っ」
及川「あなた!岩ちゃん!」
一君、徹くんだけでなく、お兄ちゃんやまっつんもいた。
花巻「俺の…大事な妹に、手ぇ出すんじゃねえ…!!」
長身の、しかも結構目つきの悪い男×4に睨みつけられるというのは、すごく怖いだろう。
拳を振ったその子は、急いで逃げて行った。
あなた「な…んで………」
花巻「今日部活オフなんだろ?一緒に帰ろうと思って待ってたのに全然来ねぇから…」
あなた「……ごめん」
「帰るぞ」と言われ、学校を4人で出た。
あなた「一くん…大丈夫?」
岩泉「まだ少し痛むな…。」
私の代わりに殴られてしまった一くんは、顔を少し歪めながら腕を擦る。
あなた「ごめ…ん………」
迷惑、かけてばかりだ。
いつもいつも、私が怪我をするか誰かが代わりに怪我をするか。
私なんていっそいないほうが____
岩泉「謝んなよ、あなたが怪我なくて…良かった」
そう言って頭を優しく撫でてくれた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!