二人の間に少しの沈黙が流れる。
それを破ったのは私。
突然の私の呼びかけに驚いたのか、はたまた私から話しかけたことに驚いたのか少し目を見開いた。
でも、すぐいつもの落ち着いた表情に戻る。
彼は、少し俯いた。
夕日が沈んでいく頃。
私は衝撃の事実を知った。
そう。保科 灯は、私が大好きな人だった。
いつも、想っていた相手は、近くにいたんだ。
今、ここで気持ちを伝えようか…
それから、私は灯君からいろんなことを聞いた。
遥花とは交代でその地域にいたんだと。
私が小学生のときは灯君。中学生のときは遥花。
高校で二人は同じクラスに。
そして、名前が変わった理由を。
──倉科家から破門された。
おかげで名字は母方の『紺野』になった。
好きな人からの申し出。
断るわけもなく、私は微笑みながら頷いた。
コンコン
灯君が行っちゃう。
今、伝えるべきなのに…!
私は勇気を振り絞りその名を呼ぶ。
きょとんと、灯君は首をかしげる。
私の喉に詰まる、想い。言葉。
たった2文字、『好き』って言えたら。
たった2音、発せられたら。
でも、私の口が許さなかった。
私は自嘲気味に手をふる。
対照的に灯君は、笑顔で手をふってくれた。
灯君が病室から出たあと、窓から外を見ていた。
冬の夜空は、星が綺麗に見える。
それは、空気が澄んでいるから。
今日は、三日月が綺麗に煌々と輝いていた。
私は、手をつなぎ願う。
勇気がほしい───────
と。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!