しばらくすると、お父さんが迎えに来てくれた。
それは、もうひどく慌てていて、私は『大丈夫、大丈夫だから』といってお父さんをなだめた。
それから家に帰り、私はすぐベットに入った。
もう、夜も遅い。
眠たいのだ。
私の瞼が閉じるのに、時間はかからなかった。
***
『…痛い。やめて!』
『お前が悪いだろ!俺の服にこぼしやがって!』
そこには、小学生くらいの女の子と、小学生くらいのがたいのいい男の子。
どうやら、女の子は殴られているようだ。
───何?これは、何を見てるの?
そこには、私が小学生の頃のシーンがあった。
第三者側で見ている。でも、向こうは気づかない。
そこで、夢だと思った。
それでも、夢は進んでいく。
あぁ、ここで私が殴られて、灯君が止めに来てくれたんだっけ。
『ちょっと、結々ちゃんに何してるんだよ!弘前!』
『保科に関係ないだろ?だってこいつが悪いし。』
弘前が、ドンッと私を突き飛ばす。
『っ!』
『弘前が悪い!俺は見てたんだから。お前の方からぶつかってこぼれたのを女子のせいにして殴るなんて卑怯だ!』
『…っ!』
『もういい、先生呼んでくる。』
それから、弘前は先生にひどく怒られていた。
そして、灯君は私に優しかった。
ここから、私は灯君が好きになったんだ。
そして、こんな弱気な私とさよならしたくて、"強くなりたい"と思い始めたのもこの頃。
この夢は、灯君への想いの再確認。
このあたりから夢が、無意識のうちに消えていく。
あぁ、今度は楽しそうな夢だ。
***
─────その頃。
一人の少女は、大きな邸宅のバルコニーから夜空を眺めていた。
外は、肌を刺すような冷たい風が吹いている。
羽織っている服がぱたぱたと靡く。
空には、煌々と輝く三日月と無数の星たちがあった。
彼女はそれを眺めながら眼をそっと閉じる。
そして、一言。
『灯に好きって言えれば……。』
この少女もまた三日月に、勇気がほしいと願ったようだ─────。
***
鳥の声が聞こえる。
もう、朝かな…?
私は、寒さでまだ布団に入っていたい体をむりやり起こす。
私は伸びをした。
すると、
コンコン
部屋をノックする音がした。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!