おいかわさんの口からでた言葉。
…それはつい昨日、猫でも耳にした言葉だった。
『(…姫、ねえ…)』
私が彼らの立場だとしたら姫なんて作らないだろう。
…言ってしまえば姫なんてただのお荷物にしかすぎない。
昨日、猫では『強さを証明する』みたいなことを言っていたが、正直どうでもいい。
私は目をつけられず、普通の毎日を過ごしたいだけなのだ。
…え?もう普通じゃないって?
……。
…気のせい、だよ。うん。
『はあ…』
思わず、ため息をつく。
心が一気に重くなった感覚になった。
…一と話していたときの楽しさなんて一切ない。
『…』
ちらり、一の方に目線を向ければおいかわさんになにかを言っているのが目に写った。
ごしょごしょ話しているため、何を言ってるのか聞き取るのは不可能。
…しかし、一の顔からは少し焦りが出ていて。
それとは裏腹においかわさんは余裕そうな表情だった。
話の間に入れそうもないので、私はスマホの電源をつけ、某メッセージアプリを起動させ、母に《久しぶりに一と会ったよ。覚えてる?岩泉一っていう1つ年上の男の人。》と、送る。
きっとお母さんのことだから覚えてるんだろうけど。
なんとなく聞いてみたい気分になった。
それから私は某メッセージアプリを落とし、音楽アプリへと移動する。
携帯にさしっぱだったイヤホンを耳につけ、聴きたい曲を探す。
((ピコンッ
曲を探している途中に通知が1通。
だいたいの見当はついているのでいったん無視。
『…』
聴きたい曲を選び、それを流しながら私は寝る体制をとる。
一とおいかわさんはまだなにか話しているようだし、寝ても構わないだろう。
そう思い、私は目を瞑った。
・
岩「あいつを姫にするって本当なのか…?」
及「…俺はそのつもりだけど?」
岩「……」
及「そんな追い詰めたような顔しないでよ…。それに最終的に姫になるかならないか、それを決めるのはあなたちゃんなわけだし」
岩「…ああ、そうだな」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!