ご飯を食べ終えてあたしの部屋に亜嵐とふたりでいた。
床に座り、小さなテーブルで夏休みの宿題の
プリントをやっている。
夏休み前、3人で花火をした時。
あの日、亜嵐に告白された。
でも次の日、亜嵐に会ったら
何事も無かったような態度だった。
どんな顔して会えばいいんだろうかとか、
あたしの方が逆に意識してたみたい。
亜嵐の態度があまりに普通すぎて
気づけば普段のあたしたちに戻っていた。
もちろん気まづくなりたくないし
良かったんだけど……。
やっぱり、あたしより頭いい
あたしが手を差し出すと
亜嵐はべーっと舌を出す
亜嵐はあたしの部屋を出て
自分の家に帰っていった。
あの日のことは夢だったとか…?
あたしのこと好きって言ってたくせに
あの日以来、そんな態度は全然感じない。
自分の唇を指先でつまむ。
ちがう。やっぱり夢なんかじゃない。
亜嵐にキスされた時の
唇の感触をまだ覚えている
恥ずかしくなって自分の顔を両手で覆った
キスしたのは2回目だって言っても
幼稚園の時と今じゃ全然違う。
そういえば、すべり台の上でキスしたのが
亜嵐ならお昼寝の時間にキスしたのは
玲於ってことだよね?
あたしのファーストキスは亜嵐だったんだ。
ていうか幼稚園の時のキスって
ファーストキスっていうのかな?
どっちにしろ、幼稚園の時だろうと今だろうと
亜嵐があたしのファーストキスの相手…。
亜嵐はあたしが玲於のこと好きだって気づいてた。
玲於はあたしの気持ちなんか
これっぽっちも気づいてないのに。
なんで亜嵐はあたしの気持ち全部分かっちゃうわけ…?
それくらいあたしのこと思ってくれてるってこと…?
胸がギュッてなる。
好きな人が他の人を想ってる。
あたしが苦しいのと同じくらいに
亜嵐も苦しかったりするのかな…?
自分を想ってくれる人を好きになれたら
こんなに苦しまなくて済むのに。
なんで玲於じゃなきゃダメなの…?
_______ガチャ…。
部屋のドアが開き玲於がやってきた。
あたしは元気よく手をあげて言った
笑いながら玲於はあたしの横に座ってきた
あたしの言葉に満面の笑みを見せる玲於
本当に調子いいんだから。
まぁ、あたしもさっき亜嵐に同じこといったけ?
ほら、また。
そんな笑顔されたら。
必死に抑えようとしてる好きって気持ちが
一瞬で大きくなって心の中をいっぱいにする
それがまた悔しくて、切なくてたまらない。
アイスを食べ終えてあたしがプリントの続きを
やり始めると玲於は床に落ちていた
雑誌をペラペラとめくりだした。
いくら夏休みで学校で会えないからって
バイト先も同じで会えるのに。
ふたりは本当にラブラブなんだな…。
また胸がぎゅって苦しくなる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!