私の家の"リビング"を訝しげに見渡しながら呟く九条さん。
お茶を九条さんの前に置きながら、可笑しそうに笑う私の母。
ーーって⁉︎ 猫ならいいの⁉︎ しかもうちが猫派だったの初めて聞いたよ私っ!
なんで嬉しそうなの⁉︎ お母さん⁉︎
今のは絶対、貶し言葉だよ。喜ぶ要素はないからね、お母さん。
しかも九条さん、私の時とは言葉使いや表情が違う……毒や棘はあるけど。
褒めてないよ、お母さん。
しかも会話も噛み合ってないよ。
……うっ、なぜこんなことに。
九条さんが、お母さんとテーブルで向き合って座ってるだけでも違和感あるのに、私が九条さんの隣に座る現状……。
すっごく逃げ出したいよ!
と、口に手をやってニヤニヤと笑うお母さん。
い、嫌な予感……。
ーーダンッ。と、ドアが勢いよく開いた音が、お母さんの声を遮り、乱暴な足音が近づいてくる。
バンッ! と、リビングの扉を開け放ったお父さんは、蒼ざめた顔で肩から息をしていた。
スッと九条さんは立ち上がると、目を見開いて驚愕するお父さんに頭を下げた。
九条さんの洗礼された一連の動作に魅せられたせいか、お父さんは困惑気味にたじろぎーー。
お父さんは驚愕のあまりか、腰を抜かす勢いで後ずさり、壁に衝突。
お母さんはなぜか顔を赤らめて、興味津々の眼差しで私と九条を見比べている。
情けない顔でゾンビのように這いずり、私の膝を揺らしながら縋るお父さんの姿にーー、
私は正直、ドン引きしてしまった。
お父さんは息を吹き返した魚のように立ち上がり、テーブルに乗り出して九条さんを睨みつける。
九条さんは嘲笑うように口を緩めて、お父さんに指を指す。
そう憤ると、九条さんから私を守るように間へと入り、仁王立ちする。
お、お父さん。私、初めてかっこいいてーー
ーーと、名刺を取り出してお父さんへ手渡す。
お父さんは訝しげな目で名刺を引ったくるとーー
ぶるぶると小刻みに震えているお父さんをに、笑いかけるとーー
き、聞いてないよ! そんなこと!
九条さんはテーブルに銀色のアタッシュケースを置いて、おもむろに開けるとーー
ーー札束で埋め尽くされていた。
颯爽と九条さんの前で跪くお父さんとお母さんは、頭を下げて了承してしまった。
と、爽やかに笑う九条さんを、私はただ呆然と眺めることしかできなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。