昼休み、手洗い場で手を洗っていたら奏歌がやってきた。
奏歌が少し下を向いて、ふう、と切り出した。
奏歌の話は奏歌にとっては大変な事だけれど、私にとっては関係ないものだった。
こう言ったら、冷たいかな。
奏歌は頬にかかっていた髪を耳にかけて、そっと、あたしに見せた。
そこには痛々しい傷。
青くなっていて、よく見ると、奏歌の顔色はすごく白っぽかった。
奏歌はすごく落ち込んでいた。
モデルだし、当たり前か。
なんて言えばいいかが分からくて。
少し素っ気なかったかな。
ぶつぶつと呟いている奏歌に、少しむかついた。
あたしに言ってなんになるの。
うるさいなぁ。って、正直思った。
あたしに言ったって何にもならない。
ただ自己満の愚痴聞かされるだけ。
モデルだし?顔大事にしないといけないし?
どうでもいい。そんなのモデルの友達に言いなよ。
奏歌が優れてるって認識させられる事が、結構胸につかえる。
こんなふうな気持ちにはなりたくない。
だけど、心の中くらい思わせて。
そうでもしなきゃ、辛い。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!