第11話

執着の恐怖
780
2023/04/26 21:00
今日は、特に仕事を振られることなく終えることができた。

良かった…。

時刻は17時。

まだ時間もあるし。
買い物でもして帰ろうか。

オフィスを出たところで、一応、シルクがいないかどうか、辺りを見まわし確認してみた。
うん、いない。
まだ仕事中かな??

そして、足を踏み出した、その時。
同僚
お疲れさん!
突然、声をかけられてビクッとする。
あなた
え…なんで…。
いつもは、もっと遅い時間のはず。

私の言いたいことが分かったのか、同期はニコッと笑いながら、その理由を教えてくれた。
同僚
今日は外回りだったんだ。
で、今帰社したところ。
あなたの名字は、もう帰り??
あなた
う、ん。
じゃ、じゃあ、お先に!
朝、感じた空気のせいだろうか。
それとも、シルクに言われた言葉のせいだろうか。
冷や汗が止まらない。

一刻も早くこの場から離れないと…。
そう、思った瞬間に。
手首をガシッと掴まれた。
あなた
……っ!!!
同僚
……あぁ、ごめんごめん。
一つ言い忘れていたことがあって。
あなたの名字の家の近くに、最近不審者が出るらしいんだよ。
もう、家に着く頃には薄暗くなっているだろうし。
くれぐれも、気をつけて…な?
人当たりの良い笑顔で、伝えられる言葉。
でも、明らかに不穏な空気を感じる。
そして、何より。
その言葉に違和感を感じた。
あなた
あ、うん。
分かった…気をつけるよ。
手首が離された瞬間に、私は早歩きでその場から逃げた。

ヤバい。
本能が、逃げろと警鐘を鳴らしている。

思い返せば、昨日もおかしかったのだ。
彼が「あの発言」をした時に、おかしいと気づかなければならなかった。

"もうすぐ着くぞ"
"家の近くに不審者が出る"

私は、彼に一度も住所を教えたことがないのだから。
あなた
…はぁ…はぁ。
急いで地下鉄に乗り込む。
心臓がバクバクと不穏な音を立てる。

脳内で、先程の同期の言葉がリフレインされ続ける。

怖い…っ!!
身体をギュッと抱きしめる。

大丈夫。家に入ってしまうまでの我慢だ。
この時間だから、シルクは帰ってきていないかもしれないけれど。

とにかく、駅についたら、ダッシュしよう。





電車は、ゆっくりと最寄駅に到着する。
車両から降りて、改札を抜ける。
そして、走り出そうと足に力を入れた瞬間。
フワリと香水の匂いがした。

ゾワリと、身震いする。
その香りは、同期と同じ…
同僚
……やっぱ、許せないなぁ…。
どうしよう…。
恐怖で、声が、でない…。
同僚
俺のものなのに。
こんなに跡、つけられて。
ハイネックから覗くキスマークを、指でなぞられる。

触るな!!!
そう、言いたいのに。
言葉が、でない。

周囲にはたくさん人がいるのに。
みんな、自分のことでいっぱいいっぱいで。
私たちに違和感を感じる人なんていなくて。
あなた
……なん、で…っ
同僚
…あれ?知らなかった?
タクシーでなら、電車より早く着けるんだよ。
さぁ、…こっちにおいで?
ちゃんと、消毒してあげるから。
腕を引かれた瞬間。
涙が溢れた。
そして。
昨夜の。
キスマークをつけて嬉しそうに微笑んだ、シルクの笑顔が頭に浮かんだ。
あなた
シルク!!!!!!!!
私は、力の限り叫んでいた。
そこで初めて。
周りが何事だと振り返る。
同僚
……チッ。
何とか、隙を見つけて逃げようと駆け出す。
腕を再度掴まれかけるが、私は必死に抵抗した。

嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

全力で振り切った、
その時。
シルク
あなた!!!!!!!
シルクの声が聞こえた。
あなた
シルク!!!!
シルクの姿が見えた途端、不安の涙は安堵の涙に変わる。
私は、力の限り走り、シルクに抱きついた。
それでも、震えは、止まらなかった。
シルク
……はぁ…はぁっ…。
間に合った、か?
私は首を縦に何度も振る。
あなた
…ごめ…気を…つけてた、んだけど…
シルク
分かった。
あとは、俺たちに任せろ。
あなた
……へ?
"俺たち"?
シルクの言葉に、訳が分からず顔を上げる。
シルクは、優しく涙を拭ってくれた。

すると。
ンダホ
どーも!Fischer’sンダホです!
マサイ
マサーーーーイ!!
ザカオ
ザカオ!
モトキ
モトキ!
ダーマ
トモキ!
モトキ
懐かしすぎるだろ、それw
いきなり、Fischer’sの撮影が始まった。

周囲が一気に騒がしくなる。
メンバーに気づいた女子高生たちから、黄色い歓声があがった。
マサイ
んで??今日は、何で駅??
ンダホ
それがさー。
Twitterで、タレコミがあったんだよ!
この駅の周辺で、不審者が出るって!
ダーマ
えー…それ、ホントかなぁ?
モトキ
まぁ、でも。
「火のないところに煙は立たぬ」って言うしね。
マサイ
なんだ、それ??
モトキ
あ、マサイは気にしないで。
マサイ
えーーーーひどくねぇ!?
オープニングからのトークで、まさかの不審者の匂わせ。
何をする気なんだろう…と、不安な気持ちで見ていると。
シルク
だーいじょうぶ。
任せとけって。
シルクが、ニヤリと悪い顔で笑った。
ンダホ
おー!!ザカオ!
なんか分かった??
ザカオ
いやーわかんねー。
聞き込みに行っていたのか、ザカオが戻ってきた。
ンダホ
やっぱ、そう簡単じゃないかー。
ザカオ
あ、でも。
落とし物は拾った!
スマホ!
モトキ
え、まさかの人助け?w
ダーマ
とりあえず、駅員さんに渡しとく?
ザカオ
そーだな……っと。
やべ。画面に指が触れちまった…。
ンダホ
え!!!ちょ!!何これ!!
ザカオの指が触れたことで、スマホのロック画面が表示される。
その壁紙には。
ザカオ
なんだ、これ。
隠し撮り…??
ンダホ
この子、俺、知ってる子なんだけど…。
Fischer’sの様子から、異変を察した周囲の人たちも、ざわつき始める。
マサイ
ザカさん!これ、どこで??
ザカオ
え、いや、そこの階段裏…
…って、え!!?
あなた
………っ!!!
スマホを盗まれたことに、気がついたのだろう。
同期の彼が、スマホを取り戻すため、ザカオに向かって殴りかかろうとした。
同僚
…ってめぇ!!!
あなた
ザカオさん!あぶな…っ!!
シルク
大丈夫だよ。
え?と、シルクを見た一瞬で。
ザカオは軽く同期を避け、そのまま足を引っ掛けた。
その弾みで、同期は体勢を崩す。

そして。
その隙を見逃さなかった5人は、一気に取り囲んだ。

逃げられないよう、ンダホが押さえつける。
ンダホ
……この子さー。
俺たちの仲間の、大事な人なんだよね。
スマホをひらひらと見せながら、ンダホが話す。
マサイ
とりあえず、警察には連絡してっから。
モトキ
もし、またあなたちゃんに近づくようなことがあったら、この映像、YouTubeにすぐ投稿するからw
みんな笑顔なだけに、それがまた一段と怖い…。
もちろん、最後の会話は、周囲には聞こえないよう配慮済みだ。

その言葉に、同期は抵抗することを諦めたようだった。

その後、到着した警察官によって、同期は連行されて行った。
すれ違いざまに、
同僚
…ごめん…
と小さく呟いた言葉は、私だけでなく、シルクにも聞こえただろう。

結局、今回の騒動は、警察や駅員とも最初から連携済みだったようだ。

何も知らずに、その場に居合わせた人たちには、「自主映画の撮影」で押し通した。
本当、みんな無茶をする…。

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