あの後、私たちは、騒ぎになった駅から少し離れた公園に移動した。
初めは、家に呼ぼうとしたのだけれど。
シルクに断固反対されてしまった。
なるほど。
ほんと、シルクは愛されてるなぁ。
古参のウオタミとしては、微笑ましい限りだ。
シルクの方を見ると、恥ずかしいのか、明後日の方を向いている。
可愛いなぁ、もう…。
マサイがニヤニヤしながら、意味深に聞いてきた。
マサイが何を言いたいのか分からず、尋ね返す。
シルクはそっぽを向いたまま。
他のメンバーは、目配せをしながら、ニタァっといたずらっ子みたいな顔をしていた。
そう言って、マサイが指をさしたのは、自分の首筋。
それだけで、何を言わんとしているか察した。
ど、どうしよう!!
なんで、みんなそんな目ざといんだよ!!//
と、心の中で悪態をつくが。
どうやら、私より背の高い人からすれば、丸見え状態らしい。
ゴニョゴニョと言い淀みながら、チラッとシルクを見て助けを求める。
だが。
シルクは顔を背けたまま。
無視を決め込むようだ。
このヤロウ。
みんなの気持ちは、有難い。
ただ、それは、本当にシルクと恋人関係になっていたらの場合だ。
まるで、自分から処刑台に登るような感覚。
ここから、逃げ出したいぃ…。
シルクが、何を思ってキスマークをつけたのか、分からない…わけではない。
その後の、熱を帯びた視線も。
もう、子どもじゃないから。
でも。
ハッキリと告げられたわけではないし、私も気持ちをぶつけていない。
いや。
私からぶつけることは、絶対にない。
シルクの、世界を狭めたくないから。
私が、しどろもどろに答えたのが悪かったんだろう。
メンバーの矛先は、シルクへと向かってしまった。
みんなが、シルクに詰め寄っている。
でも、シルクは知らん顔だ。
その様子が。
余計にみんなの神経を逆撫でする。
もちろん、本気で怒っているわけではないけれど。
私を心配してくれる気持ちが大きいのだろう。
少しずつ、ヒートアップするメンバーに、私も焦りが生じる。
シルクに、あんなことをさせた原因は。
結局、私なんだから、と。
私の大きな声に、メンバーの動きはピタッと止まる。
言いながら、シルクを見る。
そして、その驚愕する瞳を目にした瞬間に感じたのは…
"また、間違えた"ということだった。
私は、この空気に耐えられず。
メンバーに責められるシルクの姿に耐えられず。
決して口にしてはいけないことを、口走ってしまったのだ。
なのに。
間違えたと分かったのに。
一度喋り出した口は、止まってくれなかった。
そこまで言って、目を見開く。
シルクが。
あの、シルクが、泣いていた。
その涙と、表情を認識した瞬間に。
私の身体は咄嗟に動いていた。
シルクの瞳が、見る見るうちに、光を失っていくのが分かった。
離人・現実感喪失症候群の症状が出ていたのだ。
私の背筋が凍りつく。
私が。
私の言葉が、シルクを傷つけてしまった。
メンバーも、呼び戻そうとしてくれる。
でも。
反応は返ってこない。
ンダホの言葉に、私は首を横に振る。
ギュウッと、シルクの袖口を握りしめる。
臆病な私が、全部悪い。
シルクのために。
シルクのためなら…って。
自分の保身ばかり考えているから。
私は、ギュッと目を瞑る。
先程のように。
また間違えてしまうかもしれない。
私は、不器用な人間だから。
でも。
私のせいでシルクがこうなったのなら。
私が責任をもって、助けるよ。
シルクが、これまでそうしてくれたように。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。