それから、私たちは色んなことを話した。
お互いの好きなところ。
今、ハマっていること。
趣味や特技など。
話しながら、改めて。
私は名前以外の情報を、全く知らせていなかったのだと、思い知った。
シルクは、なぜか自慢げだ。
かなり、長くシルクロードを見てきた。
自分と同世代の人たちが、バカやって楽しんでいる動画。
自分とは違う生き方に、憧れた。
確かに。シルクの言う通りだ。
私の家の前で蹲っていたシルク。
動画で見てきた姿とは、180度違うシルクだった。
幻滅?
そんなの。
私は、聞き捨てならないとばかりに、大きな声で否定する。
どんな一面だって。
全部シルクの一部なのだ。
受け入れられないわけがない。
私の言葉に、シルクは思わず吹き出す。
そして、柔らかく微笑んだ。
指を絡めながら、ギュッと手を繋ぐ。
そして、その指に、シルクは軽くキスを落とした。
2人で笑い合う。
ここまで、色んなことがあったけど。
こうして、シルクと気持ちを通わすことができた。
私は、この上ない幸福に満たされていた。
同日昼前。
マサイの家で編集中のンダホに、シルクから電話がかかってきた。
少し、緊張した面持ちで、ンダホは通話ボタンを押す。
いつものシルクの声に、2人は安堵する。
ンダホの質問に、シルクは、
うん、ん…っ!
と、軽く咳払いをする。
悪態をつきながらも、きっと。
シルクの表情は緩んでいるに違いない。
その様子が容易に想像できて、ンダホとマサイは顔を見合わせて笑った。
シルクが、自分から他人を求めたのは初めてだったから。
冷静さを欠いて、何も考えられなくなって、それでも譲れないもの。
シルクにとって、それが彼女だったんだ。
シルクとの通話が切れた後、ンダホとマサイは思わずガッツポーズをしたのだった。
リビングから、私はシルクの様子を伺った。
めんどくせーと言いつつ、シルクの口角はいつもよりも上がっていた。
嬉しいくせに。
そんなシルクの表情に、私はケラケラと笑う。
2人でスケジュールを確認する。
シルクは、案件動画以外なら調整できるようだ。
私も、夜ならいつでも大丈夫だが…。
できることなら、次の日が休みの方がありがたい。
シルクが、すぐにラインでメッセージを送る。
と。
みんな、上手く時間を調整してくれたようだ。
それぞれのメッセージから、どれだけ、シルクが愛されているか伝わってくる。
珍しく、素直な反応。
それほど、みんなの気持ちが嬉しかったのだろう。
私のことも助けてくれたし。
信じて、シルクを任せてくれた。
本当に、いい仲間だと思う。
ふと、メンバーに、恩返しがしたいと思った。
そして、私にどんなことができるか考えてみる。
料理…プレゼント…手紙…
しかし、どれも全くピンとこない。
なかなかいい案が思いつかず。
その場で唸っていると、シルクが首を傾げて覗き込んできた。
あ!!!
そうだ!!!
一つ、閃いた私は、シルクにある提案をした。
シルクには、
「恥ずい!!」とかって反対されるかと思ったけど。
どうやら、オッケーのようだ。
メンバーみんなが、楽しめ。
そして。シルクの思いが、伝わる。
そんな恩返しができたらいいな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。