それから数日後
俺は精神的にも肉体的にも疲れてしまい
来生からも他のナースからも大丈夫かと
言われるようになった。
七瀬の手を握りしめる
トクトクと刻む心音に何度、安堵したことか
その時、握っていた手が微かに動いた気がした。
気のせいかとも思ったが俺は話しかける。
目を開けた七瀬。
やっと戻ってきてんだ。
嬉しさが込み上げる。
咄嗟にナースコールを押す
その一言で俺は思い出した。
医者A 意識障害が出るかも知れません。
七瀬は俺のことを覚えていなかった。
そこに担当の医師が入ってきて、検診する
担当医から逆行性健忘症だと言われた。
事故や何らかの原因で脳の機能が損傷し、
それを発症した以前の記憶が曖昧になる症状
要するに記憶喪失みたいなものだ
すぐに記憶が戻ったりする事もあるがもう一生記憶が戻らない事もあるらしい。
そこに循環器内科の皆がきた。
皆 !?
皆 ...........
皆 .......
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それから全員が自己紹介をした
七瀬も最初は戸惑っていたが話を聞いているうちに慣れていった。
俺も一緒に病室を出た。
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来生にはああ言ったけど、俺は自信がなかった。
七瀬はまた好きになってくれるとは限らない
もしかしたら他のやつを好きになるかもしれない。その時、俺は受け入れられるんだろうか...
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それから2週間後、七瀬はリハビリも終わり
退院できることになった。
俺が休みをとって七瀬を家まで送ることにした。
七瀬の家は同棲したてで新しい家を探そうと
していた所だったから借りたままにしていたけど
まさかこんな事になるとは思ってもみなかった...
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七瀬の家に着いた。
もしかしたら思い出すかもと淡い期待していた
からやっぱり思い出してくれないと悲しいな...
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七瀬が頭を抑える
七瀬が思い出しそうになってることに
嬉しさを覚える。
天堂は慣れた手つきで料理する
それから久しぶりに一緒にご飯をたべた。
まるであの頃の七瀬が帰ってきたみたいだった。
そう言って七瀬は自分の部屋にかえっていった。
俺は一人になった部屋に戻り泣いた。
最近は涙もろくなってしまって
すぐに泣いてしまう
七瀬が隣の部屋にいる
帰ってきている
それだけのことで涙が出る
いつか七瀬は思い出すんだろうか
これから思い出さなかったら
どうなるんだろう...
また好きになってくれるだろうか
帰ってきてくれて嬉しい気持ちと
不安な気持ちで心の中でいっぱいになる。
.....あの時、七瀬が俺を変えてくれて、
俺が七瀬を好きになったように
今度は俺が七瀬を振り向かせてみせる...
そう心に決める。
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七瀬side
先生が婚約者のことを話すときなぜだか
嬉しそうな悲しそうな顔をする。
その顔が目に焼き付いて離れなかった。
その顔を思い出すとなぜだか胸が苦しくなった。
これはどうしてなんだろう...
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!