太我との距離感が少しずつ元に戻ってきた。あの言葉通り、太我が変に優しくしてくることはなくなった。気まぐれに話しかけてきて、俺が失敗すればイジってきて、くだらない会話がぐだぐだ続く。なんだか昔に戻ったみたいだった。優しくされないから余計なことを考える必要もなくて楽だった。達也くんを避けたいのもあって、自然と太我といることが増えた。
達也くんの顔を見るたびに罪悪感が募る。申し訳なくて、自分が嫌で、でも何も考えたくなくて。
だから太我に話す。とにかく達也くんのことを話す。話せば楽になる気がした。
そうやって、ただ停滞の日々を送る。どれだけ達也くんに好きだと言われても避けて無視して聞こえないフリをした。用事がある、忙しいなんて嘘をついて断って、太我の家に行って胸のドロドロを吐き出した。俺がいつ行っても太我は家に入れてくれた。
聞かれて初めて考えた。あんなに好きと言われていたのに、俺が達也くんを好きかどうかは考えたことがなかった。だってどうせ達也くんの言葉は嘘か気の迷いかその程度で、だから俺の答えなんか無用なのだ。そのはずなのだ。
そう言ったら太我は眉をひそめた。
わかってるような言い方に腹が立った。でも何も言い返せない。
傷つきたくないことの何がいけないというのだろう。
沈黙の中、不意に太我がため息をついた。
ゆっくりと言葉が紡がれる。その先は聞きたくないと思った。太我は少し迷ったようだったが、それでも決心したように俺を見た。
太我の瞳が揺れていた。俺はまた黙ってしまった。
胸から何かが零れていくような感覚に、足がすくんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。