ポストを開けたら大量の封筒が入っていた。
両手にいっぱいのそれらを部屋で眺めた。不思議なことに、差出人も宛先も書かれていなかった。直接投函したということだろうか…そう考えて少し身震いした。
こういうのって開けない方がいいんだろうか。でもそれで変なことに巻き込まれてもやだしなあ。
迷っていたらインターホンが鳴った。
予想はしてたけどやっぱり達也くんだった。あんなこと話しといて顔合わせづらいし、できれば二人きりにはなりたくないんだけど、達也くんはほぼ毎日来る。
暇なのかな、とか失礼なことを考えながら玄関を開けようとして、テーブルの上に散らばった封筒たちを思い出した。少し迷って、棚の中に全部突っ込んだ。
笑顔で上がり込んでくる達也くんにため息が漏れた。彼の言葉は嘘だ嘘だと自分に言い聞かせるのももう飽きた。早くやめてほしい。そうとは知らず達也くんはしつこく話しかけてくる。
そう言って笑いながらのしかかってくる。達也くんってこんなキャラだったっけ。
じっと見つめられて思わず目を逸らした。達也くんの真っ直ぐな目が苦手だった。この目で好きと言われるたびになぜか足元がぐらつくのだ。
言い切ったら達也くんはやっと黙った。悲しそうな顔で俺を見てきたけど無視した。
それからはずっと無言だった。それでも達也くんは俺のそばから離れなかった。
帰り際、達也くんは不意に口を開いた。
もう聞き飽きたセリフだった。一瞬、ほんとに一瞬、あの大量の封筒のことが頭に浮かんだけど言わなかった。達也くんの言葉なんか信じない。頼らない。俺は一人でいい。
言ったって、俺なんか助けてくれるわけないんだから。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。